英語の読み書きを学ぶ⑵ ジョリーフォニックスの導入について

『ジョリーフォニックス』DVD第2弾発売にあたり、日本と英国の両方での教員経験を持つ山下桂世子先生に「ジョリーフォニックスで英語の読み書きを学ぶこと」についてうかがいました。ジョリーフォニックスで何ができるのか、「何を」「どのように」指導したらよいのか、イギリスでの例も挙げて説明していただきました。


山下 桂世子(やました かよこ)

(ジョリーフォニックス&ジョリーグラマートレーナー)

 

 


「読むこと」「書くこと」の基礎の部分?

2020年度から小学校高学年の「外国語活動」が「教科」になり、新しく「読むこと」と「書くこと」が指導されることになりました。

ジョリーフォニックスは、まさにこの「読むこと」「書くこと」の基礎を指導するのに、最適なプログラムです。

では「何を」「どのように」指導をしたらよいのでしょうか。


私たちが日本語や英語などの活字を見て読むときには、頭の中でかならずそれを「音声化」しています。つまり、単語を見たときに、その文字を①「音声化できる力」をつけ、そして音声化したかたまりを②「くっつけて単語として読む力」が必要になります。

 

指導要領の目標を見ると、高学年では

 2)読むこと

   ア 活字体で書かれた文字を識別し、その読み方を発音することができるようにする。

   イ 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする。

と記されています。

 

文字を見たときに、その読み方、つまり「b」であれば、「ビー」という名称ではなく、「ブ」という音を言えるということを意味しています。

ジョリーフォニックスでは、まさにこの文字を見たときにその読み方を発音することを指導します。そして同時に、それらの音をくっつけて読む力も養っていきます。

 

例えば、b, a, tのそれぞれの文字の音を学習すれば、batという単語を「ブ-ア-トゥ」と一音ずつ音声化し、さらにそれらをくっつけてbatとまとめて読める力がついていくことになります。音声で慣れ親しんだ語句であれば、子どもたちはこれがバットだと認識ができるでしょう。

この「音をくっつける作業」が実は大変大切なプロセスなのですが、ジョリーフォニックスを導入することで文字を見てその読み方を発音するだけでなく単語が読めるようになる、つまりこの読み書きの基礎の部分を補ってくれるのがジョリーフォニックスなのです。

どの段階でどうやって導入すればいいの?

では、授業のどの段階(年齢、時間)でジョリーフォニックスを導入していけばいいのでしょうか?

理想を言えば、文字に触れる中学年から指導をしていくのがいいでしょう。

 

英語の文字には「名称」と「音」がありますが、単語として読むときには音で発音します(母音は音、名称とも使用します)。そこで、中学年から指導を開始できるのであれば、1回15分くらいのレッスンで(基本となる音が42音あるので)42回かけて英語の基本の音と文字を指導していきます。帯の時間が取れるのであれば、その時に、そうでなければ通常の外国語の授業で週に1~2回、15分くらいの時間をとって指導するのが良いと思います。

 

その後、高学年では初期の英語学習で頻出する単語(you, I, is, the, go, to などとくに42音では読めない単語)や、42音で学習した同じ音だけれど綴りが異なるもの1か月に2回、15分ずつ指導していくことで、子どもたちは同じ文字でも違う読み方があることを学ぶことができます。

小学校英語の教科化でジョリーフォニックスができることって?

フォニックスは、アナリティック・フォニックス、 シンセティック・フォニックスの2種類に大別されます。

前者はアルファベットの26文字にフォーカスを当てて指導を行い、appleやantのa、batやbearのb、catやcarのcというように、知っている単語からその文字を切り取って指導していく方法です。これはすでにその単語の発音を知っていて、かつそうした単語の文字にも触れたことのある英語を母語とする子どもたちに多く指導されています。

 

しかし、英語圏のイギリスであってもその方法ではどうしても習得できない子どもたちがいることに懸念を示し、イギリス政府は2010年にこのアナリティック・フォニックスでの文字と音の指導をやめ、/a/ はa、/s/ はs、/t/ はtというように英語の「音」と文字(綴り)の関係を明示的に指導し、またそれをすぐにくっつけてsatと読めるようにしていくシンセティック・フォニックスの指導へと舵を切りました(詳しくはDVD第1弾『トレーニングセミナー編(DVD No.E145-S)』をご覧ください)。

英語が全く理解できない子どもたちも頻繁に学校に転入するイギリスの環境では、明示的に英語の「文字と音」を指導することで、英単語を読む力はこうした子どもたちも英語を母語とする子どもたちとほとんど変わりがないくらいの力をつけていることが調査結果に表れています。


また、特別な支援が必要な子どもたちの読む力も伸びた、という点もシンセティック・フォニックスを導入した大きなメリットです。インクルーシブ教育として、すべての子どもたちが学べる場を担保しなければなりません。今までの指導方法では、母語である英語ですら手が出なかった子どもたちが、自分で読む力を身に付けるようになったのは特筆すべき点です。

(Department for Education, Phonics screening check and key stage 1 assessment in England, 2019) https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/851296/Phonics_screening_check_and_key_stage_1_assessments_in_England_2019.pdf

日本における英語の読み書き指導

翻って、日本における英語での読み書き指導を見てみると、英語の読み書きにつまずいている子どもたちへの支援はどのように行われてきているでしょうか。

単語を覚えることに重点を当てて、10回書いて覚える、日本語の音に置き換えてフリガナを振って覚える、などという方法が主流となっているのではないでしょうか。10回書いて単語を覚えられる人はもちろんいます。しかし、自分が覚えられた方法がすべての人に通用するということではありません。フリガナを振って覚えられるのは、結局は日本語の発音です。文字と音の関係が分からないまま、結局は「通じる英語」を覚える障害となってしまうということもあります。


ジョリーフォニックスは先述のシンセティック・フォニックスの中の一教材ですが、多感覚を使用しているということにおいて、群を抜いています。一つの文字と音の関係を指導するのに、絵、音、お話し、運動感覚、文字を触る、歌などさまざまな感覚器官を通した指導を行うことで、それぞれの子どもにとって覚えやすい感覚器官を刺激することができ、結果として多くの子どもたちの記憶にとどまるように考えられています。

つまり、英語を外国語で学ぶ子どもたちも「文字と音の関係」を「その子に最適な方法で」学ぶことができる点がジョリーフォニックスの特徴の一つなのです。


一方で、聞いた単語が何の音で構成されているか、ということを理解する力を育てることもジョリーフォニックスでは同時に行っていきます。これは、単語を聞いたときにそれを構成する音に分解できるようにする技能ですが、単語を書くときに役に立つ技能となります。

例えば、tenという単語を聞いたら、暗記からtenと書くのではなく、これをt-e-nという「音」に分解し、それを文字に当てながら書く方法で、単語を暗記しなくてもその単語が書けるようになります。


こういった手法を通じて、英語の一番小さな単位の文字と音を学び、少しずつ増やしていき、自分の力で読み書きできるようになっていく力をジョリーフォニックスは育てることができます。

実際に指導されている先生方からの報告からも、読むことに抵抗のある子どもたちも、やってみよう、読んでみよう、という自主性が育てられる事例も多くみられています

これもジョリーフォニックスが英語教育化でできることではないかと思います。


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