『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』⑴


2020年度より実施されている、小学校英語授業の開始時期の早期化と高学年における教科化。コロナ禍により様々な制限がかかる中でスタートした教科化に、より一層の負担や不安を抱えておられる先生も多いことでしょう。

 

ここでは、20年以上前から小学校英語に先駆的に取り組んできた岐阜県瑞穂市生津小学校の1年生、4年生、5年生、6年生の授業を収録したDVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』の中から、学級担任、英語専科教員、管理職の先生方へのインタビューを抜粋で紹介します。

どのような点に留意して児童を指導しているのか、また、学校全体でどのような計画で系統的なカリキュラムを作っているのかなど、小学校英語教育先進校の取り組みを是非、参考にしてみてください!


  • インタビュアー: 徹(岐阜大学 教育学部 教授)

  • 回答者:棚橋 (生津小学校 校長)

  •    :尾崎 友美(生津小学校 教頭)

小学校英語教育の草分けの一つとして

巽:生津小学校は小学校英語教育の草分け校の一つだと言われていますが、これまでの取り組みを簡単にお話しいただけますか?

 

棚橋校長:本校は平成6年に当時の文部省から研究開発学校に指定され、そこから小学校の外国語、英語教育に取り組んできたのですが、当初はまだ先例もなく、本校の中で教材開発、授業、学習活動の工夫、指導計画の整備に取り組んでまいりました。平成20年からは小学校に外国語活動が入ってきましたので、それまでの国際理解教育から、授業での英語のあり方に取り組んで参りました。また、平成22年度より国の教育課程特例校に指定していただきましたので、1年生から6年生まで教科としての英語を行っているところです。

 

巽:毎年異動がある公立学校において、入れ替わりのある先生方に授業を作っていただくために、教員研修はどのように取り組まれているのでしょうか?

 

棚橋:確かに、経験がある教員が他校へ転出し、これまで小学校の英語に関してはあまり実践が無かった教員が入って来るという事もあります。しかし、本校はやはり何といっても英語を研究の第一に挙げておりますので、全員がそこへ向かう事が大事だと思っています。担任それから英語専科、ALTそして直接的には英語の授業を持っていない教員も含めて、生津小学校と言えば小学校英語教育だという意識を持って取り組んでいます。

年に数回行う全校研究会もやはり英語を中心に行っています。ただ、全員が全校研究会の授業者になる訳ではありませんので、低学年、中学年、高学年でそれぞれが部権を持ち、全員が一年に一回は研究授業を行い、それから公表会または研究発表会といった、それらを表出する場面をとっている事で緊張感を持って授業を行う力が付いている部分もあるのではないかと思っております。

 

子どもたちの興味関心を中心に据える

巽:今回、4つの学年の授業を拝見しましたが、1年生で取り組んでいたことが6年生の発話の中に色々登場してきたと思います。1年生から6年生まで、どのようなイメージで子ども達の英語を育てようとしていらっしゃるのか、全体像をお聞かせください。

 

尾崎教頭:生津小学校は20年以上にわたり英語教育の研究をしてきています。当時から現在に至るまで、独自カリキュラムで指導する際に大事にしている大元になるところは、子ども達の興味関心がシラバスだと思っています。

ですから、1,2年生の子ども達は身近で目に見える物を使い、今日の1年生の授業DVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』2巻目収録)のように

What fruit do you want?

I want a melon.

I want a banana.

ということを繰り返し、やり取りをすると、手元に物が集まるような活動を中心に行っています。

34年生になると、今日の4年生DVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』2巻目収録)のように手元に集めたものをそこで留めずに誰かに紹介しようとか、56年生になるとまたさらに、お互いに紹介しあったり、時には意見をすり合わせ、どちらが良いか選んだりする事で、段々、子ども達の思考の過程も複雑になる仕組みになっていると感じています。


それから、学習の入門期はインプットが大事である事は、指導者は皆、心がけていると思います。
特に1
2年生の指導では、簡単で前後の文脈を類推しながら聞けばわかるような絵本をたくさん読み聞かせます。自然と先生の真似をしながら子ども達が口にして、そしてそれが認められるっていうことからスタートしています。

巽:今日のティーチャートーク、ティーチャートピックですが、あれも絵本を聞くように先生方の話を自然に理解し、推測しながら聞くというかたちですね。
低学年で行った今日のクイズのようなものもインプットの場所だと思いますし、中学年のティーチャートピック、高学年のスモールトークの段階や繋がりはどんなふうにお考えでしょうか。

尾崎授業だけを見ると1年生ではこのように、4年生ではこのように、と独立してるように見られるのですが、非常に細かな段階的になっています。56年生のスモールトークも子ども同士で対話をするようになる前は、先生達同士の対話を見せる事を何時間も続けたり、先生と子どもで自由にやりとりする時間を何度も設けたりしてきています。
いわゆる一つの単元でもいろいろな形をとるスモールステップです。

巽:子ども達が発話して、元気にやってるのでこれを目指したいと思いますが、そこを目指すには、かなりステップが踏まれていて、インプットの部分が相当充実した上で、はいどうぞと、その先に渡すということですね。


生津小学校は長い取り組みがあります、そして生津小学校から発信したものが、新しい教科書の中に入ったり、あるいは文科省の教科書に入ったりするものもあるかと思います。そして、その中では変えてきたもの、あるいは変えなかったものについてお話いただけますか?

尾崎両者ともたくさんあります。まず変えていないものは、先程申し上げたように子ども達の興味関心を中心に据えることです。
1
2年生のカリキュラムはまだ生津小独自のものなので、そこはやはり変えていないところですし、3年生以上も国の教材を今は使っているんですが、言語活動の工夫という点では、子ども達は何に興味を持っているのだろう、何が旬か、を考えながら言語活動を作っています。そこは今までもこれからも変わらないところです。


変えてきたところは、学習指導要領で目標内容がハッキリしてきましたので、本校で足りない指導は何かということを数年前にみんなで検討をしました。
例えば、話す事の発表とやり取りという二つの領域が今回設定されていますが、生津小のカリキュラムではやり取りが多く、話す事の発表の指導は薄かったので、生津小学校らしい発表の指導ではどんなことが出来そうか、研究授業等を通してみんなで模索しているところです。

そういった変えていかなければならない事については柔軟にやってきていると思います。

巽:これからも小学校英語教育は進んで行く訳ですが、先生ご自身の小学校英語に対する思いをお聞かせいただけますか。

尾崎今日も一日英語の授業を通して子どもの姿を見ていて、なんとか自分の言いたい事を伝えようとか、相手の言っている事を理解しようという姿は本当に良いと思います。なぜなら社会の中で生きていく為に必要な態度だからです。外国語という子ども達にとっても私達にとっても少し不自由な限られた言葉の中で、そうした態度を身に付けていける事は小学校外国語の魅力ではないかと思います。
もちろん他の教科でも身に付けられるように指導はしますが、小学校の外国語ではその良さを発揮出来る教科だと思います。
それから小学校で教える私達がいつも心していたいのは、初めて外国語に出会うという大事な場面をまかされているっていう事を自覚しながら指導にはあたりたいと思います。
子ども達は未知なるものに出会うのが大好きですし、小学校の先生達はそれを考えるのが得意だと私は思うので、その良さを生かしていけると良いなと思っています。

巽:初めて出会う、第二番目の言葉を習得するお手伝いが出来るので、そこへの教師の関わり方や思いを大切にしていきたいなと思います。
今日は生津小学校の先生方、授業公開で子ども達も頑張っていただきました。本当にありがとうございました。


 

DVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』では、長年にわたる英語教育の取り組みから生まれた生津小の「普段の授業」が見られます。

 

また、このDVDに収録されている授業を行なった担任教員や英語専科教員へのインタビューも公開中!