「身体性を育てる小学校の英語指導」と「TPR」のつながり

山本 玲子(京都外国語大学 キャリア英語科 准教授 博士(言語文化学)

 

DVD『身体性を育てる小学校の英語指導』の制作に携わっていただいた山本先生に、この指導法と「TPR」のつながりについてのお話をうかがいました。


「日本語と英語の氷山」を最初に底に掘り進めておくのが、小学校英語の役割

 

「身体性を育てる小学校の英語指導」の中に、いわゆる「TPR」的な指導がたくさん出てきたように思うのですが、このあたりをお聞かせ願えますか。

 

元々TPRはどちらかというと年齢の低い子供向けのものだという先入観を持っている方が多かったかと思いますが、実際には中学高校でも、より高次な学習内容を扱うことができるんだということを、本シリーズ内の中学高校の実践の中で見ていただけると思います。

逆に低年齢で効果的だと初めから思われていたはずのTPRが、小学校ではあまり理論的なことを意識されずに勿体無い使われ方をされている気もします。

 

私自身は小学校の英語は45分の授業すべてがTPRと思っていまして、ちょっとした指示、表現であっても子ども達にとっては難しい英語であって、それを一生懸命身体の感覚で反応することによって、だんだん「こういう風に先生は言っているんじゃないのかな」というのがわかるようになっていく、それが小学校の良さなんですね。

 

それをちゃんと意識して分かっておられる先生は、45分間無意識にTPRをされていて、あとで私が「それはTPRですね」と言って初めて「そうなんですか」とおっしゃるくらい無意識のうちにできている先生もいらっしゃいます。

 

その一方で分かっておられない先生になると、例えば「Stand up」と言う言い方を、先生自身が全然心も身体もを動かさずに、ただ棒読みのように「Stand up. Stand up.」と言って、全然子ども達が反応しない、それで「起立」と日本語で言い換えてしまうような(笑)そんなことが往往にして見られたりします。

 

例えば、もちろん先生自身が(身振りをしながら)「Stand up」と大げさな動きをするだけでなく、気持ちも載せて(明るい声色で)「Stand up」と、とても感情のこもった読み方になっていく、そういったことも含めて先生の動きに思わず子ども達の動きが沿っていくような、そういったところまで高めていってもらうためには、低学年だから小学校英語でのTPRは勉強しなくてもいい、とはならないのではないでしょうか。

 

そういったことが小中高で繋がって見ていただくことで、初めてそれぞれの先生方に"TPRとはなんなのか”ということが心に響くというか、分かっていただけるのではないかと思います。

 

DVDの撮影の中で生徒の様子がどんどん明るくなっていくのがわかりました。動きがあって生徒が活発になっていくのがわかるのですが、これはやはり心がお互いに共鳴したりとか、そういう部分もTPRの中で変わってくると捉えてよろしいでしょうか。

 

そうですね、先生の動きと子ども達の動きが同じように同期しあってどんどん共鳴が大きくなっていくという、それがTPR、TPR的な活動全てを含んでそれが言えると思います。

 

理論的に言うならば、カミンズ&スウェインが言っている英語と母語の二つの氷山が重なっていて、海の上からちょっとだけその氷山の頭の二つが見えている図を例に出しますと、

 

※トロント大学のJim CumminsとMerrill Swain

 「2言語共有説」(氷山説)

 

日本語の氷山と英語の氷山の、海から見えてる上同士をつなげていくような英語教育が今まではわりと主流になっていて、英語でこう言う単語を日本語ではこう言う意味だ、と機械的にくっつけて覚えていくというような教育が従来はわりとメインだったということがありました。

 

でも、特に小学校英語では氷山の埋まっている部分、その二つの氷山は海の底ではくっついていて、そこには何語、という区別はない元々子どもが持っている言葉の力、規定能力といったようなものがある。というのがカミンズ&スウェインの論なのですが、私は、そこのくっついている氷山の部分に「身体性」というものが来るというふうに考えています。

 

ですから、その氷山のてっぺんをくっつける作業をするよりも、日本語であれ英語であれその氷山自体をどんどん奥に奥に底に底に掘っていくような、子どもの本当の奥底の身体の感覚なり心の動きなりを刺激するような、そういう英語教育であるべきですし、それはもちろん中学でも高校でも大切なことなんですが、それをまず最初に、しっかり底に掘り進めておくのが小学校英語の役割だと思っています。

 

 

つまり、先生が提案するような方法を行なっていくと、子ども達の英語能力を高めるのみならず、クラス関係がよくなったりする、というふうに捉えてもよろしいでしょうか。

 

そのクラスの子ども達の関係、教員との関係、ひいては言葉や身体を使ってやり取りを行う相手、皆に対して心を開いていこうという子ども達が育つと思います。

 

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