「阿野先生、太田先生とアクティブラーニング」第8回セミナーレポート


■セミナー講師

 阿野 幸一 文教大学 国際学部 国際理解学科 教授 


「今、改めて英語科教育法を学び直そう!」を基本コンセプトとした全10回の連続セミナー

現職英語教師のための英語科教育法セミナー

阿野先生、太田先生とアクティブラーニング

 

8回は、阿野先生が講師を務める『テストと評価』

 

このテーマは皆さんの興味関心が非常に高かったようで、全10回の講義の中でも早々に満員となりました。

テストと評価

 

テストをどう作って、どう評価をしていくか。

 

阿野:評価基準はあっても、これについての研修を受けたことがある方は少ないと思います。大学時代の英語科教育法でもかなり少ない時間で終わらせていたり、教わったことがない方もいます。(会場内でも実際に「テストと評価」について何らかの研修を受けた経験がある方は数名でした)

 

昔、若林先生がおっしゃっていた、英語は「教わったように教えるな」という言葉があります。教わったことを教わった通りにそのまま教えるのではなく、変えながら指導していけと言われてきましたが、テストの作り方はきちんと教わっていないのに、新任で赴任してすぐに作らねばならない。

だから、指導は変えているのにテストは以前に受けたテストを思い返してそのまま作ってしまいがちで、指導と評価が結びついていません。

若林先生:東京外国語大学名誉教授の故 若林俊輔氏

 

 …と、冒頭から、いかにこれが大切なテーマなのかが阿野先生より語られました。 

では、具体的には?ということで、前半は、このセミナーシリーズのテキストである『日々の英語授業にひと工夫大修館書店)に沿って進められました。


◾️小テスト

・小テストの目的 

  指導のため?評価のため?

・作成の際の注意点

 

◾️定期テスト

・定期テストを行う目的は? 

 生徒の英語力を測るため 

  →そのテストで測っているのは英語力?暗記力?

 指導の成果を確認するため

  →そのテストは指導に即しているか?

 生徒に学習を促すため

  →学習の指針となる出題になっているか?

 

・定期テストの出題内容と比率

 Q. 何を(どんなことを)出題しますか?

 Q. 4技能(5領域)の割合はどのような比率にしますか?

 

◾️実技テスト

実技テスト(パフォーマンステスト)は何故必要なのですか?

 できるかを「技能」で測る

 やり取りの力がついているか? →やり取りをさせてみる

 正しく発音できているか? →発音させてみる

 

 ◾️テスト作りの基本的な考え方 

テスト作りで不可欠な要素 

妥当性 →測ろうとする力を測っているか?

      リスニングの力を測りたいけど機器が壊れているから、読ませた→妥当性はない

信頼性 →点数が一貫しているか?(自分が作ったテストでは80点、隣の先生のテストでは50点)

波及効果→どんな出題をするかによって生徒(教師)に影響を及ぼす。 例)大学入試改革

実用性 →実施可能か?(問題作成・実施・採点)大変でもできるかどうか

 

測る力に合わせた設問

  Q1 文法の知識を試す 

  「並べ替え」問題と「穴埋め」問題の使い分けは?

  Q2 リスニング力を測りたい 

   記述式解答か選択肢解答か?

  

何を出題するか


上記はセミナーの前半で話された項目を並べただけですが、これを見るだけでも、ご自身の受けてきたテスト、そしてご自身の作られたテストを振り返って、何か思いあたることはないでしょうか。

  

そして後半は実際の問題例を見ながら、それぞれどのように改善するかを考えました。 

 

 ◾️英語力を測るための問題改善

1単語の知識を問う

例2)表現の知識を問う

例3)文法力(時制の使い分け)を問う

 

英語力を問うテストなのに、英語力があっても日本語の部分で迷ったり答えられない可能性がある設問や、文法用語を理解していることが大前提の問いかけだったり、なぜその答えになるのかが理解できていなくとも形だけを覚えていれば答えられそうだったり…。

一見、よく見かける設問ばかりでしたし、悪いわけではないともおっしゃってはいましたが阿野先生の説明を聞くと、なるほどと思わされることばかりでした。

 

 ◾️目標に沿った採点

学習目標に応じた評価の必要性

・3点満点で採点してみましょう

 

同じ問題で採点をして1組の先生と2組の先生で点数が変わってしまっては、先ほど出て来たテストに不可欠な要素の1つ〝信頼性〟は揺らぎます…が、例題を出して会場で採点してもらうと思いの外、点数にばらつきが見られました!

 

採点や評価は何を測りたいかによって決まってくるので、まずは学期のCAN DOリストを確認します。

日常生活についてのやり取りを聞いて、会話の要点を聞き取ることができる」

このリスニングの目標を元にテストをした、という例です。

Kenが昨日デパートに行って買い物をしたことをもう一人の子に話しています。これを聞き取らせて、Kenが昨日どこへ行ったのか、生徒に記述式で解答させました。

A君の解答)He go to the department store.

 

過去なのにwentになっていないし、goesにもなっていません。

さて、3点満点中、この解答には何点をつけますか?と会場に問うたところ、2点と3点が半々でした。

 

では、こちらの解答は?

Bさんの解答) The department store.

 

この解答に対しては、会場の皆さんは3点をつけました。

…ということは、Bさんの解答の方がA君の解答より良かった?

A君は一生懸命文章で言おうとしたのに…そうか、余計なことは言わない方がいいんだな、と思ってしまいかねません(笑)

授業でA君が口頭で答えていたら、きっと先生は「That's right. He went to the department store.」と、まず正解と言った上でフィードバックを出していますよね。

忘れてはいけないのは、このリスニング問題は前述の目標に基づいた〝リスニングの力を測る〟問題ですよね。A君もBさんも、Kenが昨日行った場所がデパートだということを掴んでいる。であれば、この場合のリスニング問題としてはどちらも満点になるのではないでしょうか。

時制が違っていても単語のスペルが間違っていても、このテストは〝リスニングの力を測る〟ためのものなのでそれ以外の部分で減点して、デパートではなく遊園地に行った、と答えた子と同じような点数にしてしまってはならない、…というお話でした。

 

ライティングに関しても「自分の日常生活に関して、内容的にまとまりやつながりのある英文を書くことができる」という目標のもとに自由英作文をやらせた場合の解答例を2つ出して、思考判断表現が入ったよくできた作文ではあるが時制が間違っている答案と、技能は満点だけどデパートに行った事実だけを述べた単文で、そこで何を買ったか、どんな気持ちになったかなどは全く盛り込まれていない答案。さて、どちらの点数が高いのか。

 

また、同じ解答でも、それが過去形の理解を試すテストにおいての解答だったら点数は変わる、というのも例をあげて示されました。

 

今、何を指導しているのか。

それに沿って、どういう出題をしたら普段授業でやっている力が測れるのか。

そしてそれをどう採点して点数化をして生徒に返していくのか。

 

指導と評価の一体化が必要とはわかっていても、その時点での基準が曖昧なまま問題を作り、評価をしていることはないでしょうか?

「テストと評価」は、子ども達に直接返っていく部分です。

もっと細かく見直していかなければいけない、考えなくてはいけない部分がたくさんあるのではないでしょうか。

皆様の興味関心が高い理由もわかり、あらためて、いかにこれが大切なテーマなのかを噛みしめました。

(2020.2)


「JLC OnDemand」でも絶賛配信中!

このセミナーの映像は、英語教員向けオンライン研修システム「JLC OnDemand」(月額課金制の動画配信サービス)でも絶賛配信中です。
ぜひ、ご覧ください!

 

>>> JLC OnDemandでの配信ご案内はこちら

※指導者・協力者等の所属は記事掲載時点のものです。