小林翔先生のこれからの英語教育を考えるオンラインセミナー「聞くこと」


 ■コーディネーター:小林 翔 <大阪教育大学特任准教授(前茨城大学助教)


4技能5領域別指導」について小中高校の各先生の実践発表と、コーディネーターである小林翔先生によるまとめ、QA、参加者とのコミュニケーションを中心に、全5回に渡って行われたオンラインセミナーの様子をご紹介します。今回のセミナーレポートは、コーディネーターである小林翔先生が各回3名の先生方の発表の後にまとめとしてコメントをしていただいた、その内容をベースにリライトしたものです。

 

2021年1月29日開催の第1回目のテーマは「聞くこと」です。

「聞くこと」小学校

■講師:遊佐 真理子 茨城県高萩市立高萩小学校

まず小学校は、遊佐真理子先生の実践発表です。遊佐先生の特徴的な活動として「他校との交流」が挙げられます。

小学校英語は始まったばかり、隣の小学校ですらやっていることが違います。隣の市だともっと違う、他府県であればもっともっと違うことが2020年では現実的に起きていますが、教科化になったばかりの現在の状況では仕方ないことかもしれません。ただそれがどの程度違うのかということを知ることはできない。今回の遊佐先生の発表にあった他校とのビデオ交流を通してお互いがやっていることの確認ができ、刺激し合い学び合いをしている実践でした。

他にはアルファベットと音とのマッチングを狙ったフラフープゲーム、異文化の観点を育む教材活用、さらにALTとのTTで「地域のおススメを外国人に紹介する」というプレゼンテーション活動。これは目的があり、はっきりしている良い活動です。ALTに自分の好きな場所をプレゼンする、そして選びBest3を発表してもらう、この目的ある活動がタスクになります。
発表して終わりではなくて、何のための発表なのか、結果はどうなった、結果報告があるよ・・・という観点はアクティビティを考えていくときの大切な視点となることでしょう。

 

「聞くこと」中学校

■講師:芹澤 和彦 私立大阪高等学校(元常翔学園中学校高等学校教諭)

中学校・芹澤先生の発表では「ディクテーション」と「ディクトグロス」という2つのKeyWordを軸に発表をしていただきました。

本当に「大切だな」ということを体感させていただいた発表でした。音声を使いながら実際に聞いてみて意味を理解しよう、つまりその部分だけではなく前後の意味や背景を類推でき、早くて聞き取れなかったとしてもこの空所にはこのような意味の一文が入るはずだ・・・ということを頭の中で理解していれば一字一句が聞き取れなかったとしてもコミュニケーションのメッセージとしてはOKです・・・。何の目的でリスニングをするのか、ディクテーションだけだとスペリングは聞き取る、単語も聞き取る・・・だけど何を言ってるのかわかりませんでした・・・それって意味がありますか?と、そこに対する問いかけだったのではないかと思いました。

教員自身がリスニングの力をつけさせたいという活動の中に、一字一句のスペリングのディクテーションももちろんスペリングと音とのマッチングも必要なことです。ただもっと重要なことは「意味重視」ということです。
その部分でディクトグロスという活動を紹介していただきました。今回は時間が限られていたため実際の教室でのペアやグループでの活動ややり取りには触れられませんでした。しかし実際には、自分一人では聞こえなかった別の表現、単語、別のフレーズを友達から学ぶということもできそうです。意図しなくとも子どもたちが意味中心にその内容を考えて議論することでパラフレーズの表現や別の表現等を学習していくのだろうと思えました。

「聞くこと」高等学校

■講師:千田 享 埼玉県立浦和西高等学校

千田先生の高校での実践では、かなりたくさんの教材を紹介していただきました。

まず、何のためにそれらの教材を使うのか、今回の千田先生のポイントはリスニング、聞くためには正しく発音しなければなりませんよ、つまり発音できることが大切だ、という部分を「5つの音声変化」というところで具体的に紹介してくださいました。
例えば生徒が「先生リスニング苦手です、聞こえないんです」という悩みに皆さんはどのようにお応えになるでしょうか。とにかく「聞けばいいんだよ、練習だよ、訓練だよ」というパーソナルなトレーニングも確かにあるかもしれません。

そうではなくて例えば、腹筋は腹直筋、腹斜筋とあってそれぞれ違うからトレーニングの仕方は異なります・・・という指導では効果は違います。聞き取れないときはこのポイントに注意して、またなぜ聞き取れないのか、それは「5つの音声変化」を理解して実践することでできるようになる、という重要性を紹介してくださいました。

また「リスニングの一言目」は、課題の出し方、いかに授業外の学習をさせるように仕向けるのかというところにある工夫が「ひとこと」というところに現れていました。「振り返り」とか「感想」ではなくワークシートを見たらほんの一言!そういうところが全員が取り組みやすい、これなら出来そうというように思わせられる、そこが勉強のスタート地点なのだろうと感じた発表でした。


第1回目は「聞くこと」ということで、小中高のつながりの中で皆さん共通していたことは「意味重視」ということでした。

「何のために聞かせるのか、聞く目的は・・・」というところ、目的、場面、状況と指導要領にも言われています。
そこの場面設定をすることでタスク達成のために様々な方法で英語を聞かせる。あと「リスニングをリスニング単体」として考えていないところが挙げられます。
聞いたことを伝えるディクトグロスや、聞いたことを発表するというプレゼンテーションなど、今回の小中高の実践は「聞くことの活動」でしたが、4技能の各技能に発展する活動だったのではないかと思いました。


次回は「読むこと」の発表になります。各回の詳細は下記リンクよりご覧ください。


第2回「読むこと」

(小)松田 佳子 京都聖母学院小学校
(中)正頭 英和 立命館小学校(元立命館中学校)
(高)坂本 幸彦 埼玉県立和光国際高等学校

第3回「話すこと(やり取り)」

(小)北野 梓  大阪教育大学大学院、大阪府富田林市立高辺台小学校
(中)駒澤 正人 千代田区立麹町中学校 
(高)浅野 雄大 神戸市立須磨翔風高等学校

第4回「話すこと(発表)」

(小)米田 理英 麹町学園女子中学校高等学校(元小学校専科教員)
(中)田中 周作 都立武蔵高等学校附属中学校
(高)重野 金美 大阪府立夕陽丘高等学校

第5回「書くこと」

(小)古屋 雄一朗 茨城県つくば市立吾妻小学校
(中)岡崎 伸一  目黒区立東山中学校
(高)田淵 香奈子 茨城県立勝田高等学校


※指導者・協力者等の所属はセミナー開催時点のものです。