プレゼンテーションを取り入れた英語授業⑴


今、求められる四技能型、発表型の授業とはー⁉

四技能型、発表型の授業が求められていますが、どのような指導をすれば真の英語力をつけることができるのでしょうか。

今回は、スモールステップで着実に基礎スキルを積み上げ、素晴らしいプレゼンテーション活動へとつなげていく立命館高等学校の武田菜々子先生の授業実践を取り上げたDVD「プレゼンテーションを取り入れた英語授業」の中から、その取り組みについて立命館大学の山岡憲史先生が掘り下げたインタビューを抜粋でご紹介します。

この授業映像を見ると、まず武田先生の話す英語のスピードの速さに驚かれると思います。それをほとんどの生徒たちは理解しています。しかし、この授業対象クラスは必ずしも最初から英語力が高い生徒たちだったわけではありません。
授業クラスは立命館高校の理系のグローバルコースである2年生と3年生のSSGクラス。英語力があるというよりは、英語力を伸ばして国際的に活躍できる科学者になりたい、という生徒たちのクラスです。2年生のはじめの段階ではTOEFL ITPテストで380-430点くらいだった生徒たちが、どのような実践を積み重ねて最終的にJapan Super Science Fair(JSSF)において、英語で堂々とした発表を行えるようになっていったのか。
どのような指導を重ねれば、生徒達の目指す姿へ導けるのか、そのステップを垣間みれます!


  • 監修・解説:山岡 憲史(立命館大学 教育開発推進機構 教授)

  • 授業者:武田 菜々子(立命館高等学校 英語科 教諭)

ネイティブスピーカーのナチュラルスピードで

山岡:授業を拝見して、まず武田先生の話す英語のスピードに驚いたのですが、それを生徒たちは理解した上で活動をしている。どのような積み重ねでここまでに至ったのか、お聞かせいただけますか。

 

武田:教師の話す英語のスピードは、実際のネイティブの人たちが話している速さに近くしたいと思って始めました。以前は生徒にわかるゆっくりめのスピードから始めて100%の理解を目指していたのですが、海外研修の際に、本当に簡単なセンテンスも聞き取れず固まってしまう生徒たちを見て、やはり授業の中で本物の英語力をつけていかねばならない授業内だけで成立するようなリスニング力では全然意味がないということを痛感しましたので、できるだけナチュラルスピードでできるだけ速く話をしています。
徐々に速いスピードに慣れてさせていくのではなく、最初に2年生の4月に授業を持った時点からある程度のスピードで話をして、最初から速いスピードのものを聞き、最初は2割の理解だったものが3割4割5割の理解となり、最終的には卒業時に10割近いものになるように、そちらの方の成長を考えています。

山岡:日頃どういうことを心がけて、生徒たちの英語を発したいという意欲や姿勢を育まれようとしているのですか?

武田:やはり授業が楽しいものであるということ、クラスの仲間づくりという面でもペアワークはすごく有効だと思いますので、誰とペアを組んでも楽しく活動ができるということ、お互い認め合えるということ、グループワークをするときにもお互いが助け合ってやれるような授業での楽しい雰囲気づくり、あとは少しゲーム要素を入れて盛り上げてみたりとか、そういうことは気にしています。

帯活動の重要性

山岡:先生の授業は、プレゼンテーション力をつけるというのが大きな目的だと思うのですが、授業の一番最初に行う科学の内容とは関係ないオリジナルストーリーを作ってお互いに話しあう活動「とっさのひとこと」を使ったペア活動、単語を英語の定義を与えて単語を考えさせたり英語で定義をさせるという活動をされていました。
その活動のねらいと、取り組む時に心がけておられること、プレゼンへ繋ぐという観点でお話しいただけますか。

武田:最初の帯活動でやっている新出単語を使用したオリジナルストーリーづくりは毎回宿題として出しているのですが、本来は単語テストをした後にペア活動をしています。
単語って書いて覚える、見て覚える、聞いて覚える、色々ありますが、やはり「使って覚える」のが最も定着しやすいと思っているので。また、単語は6回違うところで見ると定着するという説も聞いたことがあり、まず自分で覚えて、自分でストーリーを作ってみて、友達に話してみて、友達の話を聞いて、モデルのスピーチを聞いて…そんなふうに色々なところで同じ単語を聞いていくことによって、生徒の中により浸透していくのではないかと思っています。
とっさの一言(フレーズ)」というのは、例えば「It's my fault.」とか「Could you do me a favor?」というフレーズは実際の会話場面では非常によく使われていますが、教科書ではいつまで待っても出てこないフレーズです。一つの単語で理解できるものでもないと思いますし、それを丸暗記させることによって、その使用場面を想像して、覚えて使うことができる、ということを目的にしています。
フレーズも単語もそれをそのまま覚えるのではあまり意味がなくて、フレーズを覚えて、自分の身近な英文に変えてみる
また、仲間と同じフレーズを共有する。例えば休み時間に「I'm starving. 」とかを使ってみたりだとか、毎日の日常場面で使ったりします。あの「とっさのひとこと」はものすごく簡単なものから難しいものまであり、シリーズで作っているのですが、生徒にも非常に好評なものです。

山岡:単語の英語による定義もずっと続けているんですか?

武田:はい、単語も自分たちで調べて意味を考えるというのも大切だとは思うのですが、テンポのある授業をしようとするとそれが難しいので、リストにして配布し、そこで時間を削減しています。
そのリストに英単語と日本語と英語の定義を載せています。将来的に英語を不自由なく話せるようになってもらいたいと思うのですが、単語は限りないというか覚えても覚えてもまだまだ覚えなくてはならないので、もしも聞いた単語の意味がわからなくても違う定義を聞けばなんとなく理解ができるとか、もしくは自分が発した単語が相手が知らない、日本固有のものを説明したい時に自分が定義を言える。それを狙って英語の定義の活動は常にやっています。生徒も役に立つと言ってくれていますし、もうひとつ、単語量をそこで増やすという狙いもあります。

山岡:確かに、生徒のノートを見せてもらったのですが、オリジナルストーリーがとても面白い、独創性にあふれている。下線を引いているところが学んだ単語、試験範囲にあった単語、それを使ってなんとかストーリーを作ろうとしている、クリエイティビティを養うのにも非常に面白いタスクだなと思いました。
とっさのひとことも、それだけを言うのではなくて、それを使ったひとつのシチュエーションの中で語っていましたよね。それを使って少し前後の文を続けるようなね、あれで、その一言を使う場面を想定しながら表現に馴染んでいく。なかなか面白い方法だなと思いました。

武田:とっさの一言も最初はリピートアフターミーのような活動から始めるのですが、日本語から英語に訳せるようになるというのと、フレーズをたくさん使ってスキットを作ってみたりオリジナルスピーチを作ってみたりしています。また、このフレーズを言わせたい、という狙いのフレーズを決めて、それを言わせるためにこちらがいくつかフレーズを言って、相手にその返答としてこのフレーズを言ってもらうとか、いくつかの帯活動で、いつも授業の最初にやっています。

山岡:ということは、基礎力、単語や表現や文法なども必ず使う観点で生徒に取り組ませて、ペアワークなどでそれを使わせてみるということをやっているわけですね。

プレゼンテーションに取り組む意義

武田:プレゼンテーションというのは、ものすごく達成感を得られる活動だと思っています。練習したら練習しただけ上手になりますし、生徒たちが一生懸命練習した成果を発表して、うまくいったという自信を持てる、ものすごく大きな活動だと私は思っています。ゴールが見えやすいし設定もしやすいので、高校生の英語教育の活動の中では非常に有益なものだと思っています。
やはり、自信というのはすべてのものに繋がっていて、高校生は一つのことに自信を持つと、あらゆるところで力を発揮し始めます。自分は英語でプレゼンなんかできるようになると思っていなかった、それが一生懸命練習したら皆の前でもこんなふうにできた、という達成感を非常に得やすい活動で、日本の英語教育と非常に相性が良いと思っています。

山岡:学習指導要領の中でも話すことの中にやり取りと発表と大きく分かれましたね 発表に取り組む過程で最後のアウトプットに至る過程が大事だと思うのですが、話すことだけでなく色々な技能、つまり四技能を生徒が身につけていくと思うのですが、そういう観点での価値をどうお考えですか?

武田:今回の授業形態で言えば、生徒たちは私のプレゼンを聞く、というリスニングの力が必要で、それを理解することが必要、そして自分たちでその聞いた内容、理解した内容をもう一度隣の子に言ってみようというリテリングのような要素があるので、そこでスピーキングの力が育まれます。お互いペアの会話・プレゼンテーションを聞くので、そこでまたリスニング、そのあとにもう一度読み直しをしてもらうので、そこでリーディングでしっかり読んでもらうことと、最後にライティング課題をくっつけるようにしていますので、そのコンテンツの英文のパラフレーズだったりサマリーだったりオピニオンライティングだったり色々なんですけども、そういう意味においては4技能プラス、最後の質疑応答ではやり取りという力が含まれていると思います。


「プレゼンテーション活動は、非常に達成感を得られる活動である」という言葉に、生徒たちが非常に生き生きと取り組んでいた様子が納得できました。

学びというのは小さな達成感の積み重ねではありますが、最終的に「ここまで出来た!」というゴールがわかりやすいのも、能力的なことだけではなく精神的に得るものが大きいのだろうなと感じました。

 

このページではプレゼンテーションを取り入れた授業のねらい留意点をお聞きしましたが、次のページでは、もう少し具体的な指導ステップ題材選択などについてお話しいただいています。

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1巻目:プレゼン発表につながるステップアップ授業

2巻目:英語での課題研究発表と質疑応答