学力向上の取組みを通した人材育成STORY

組織・体制づくり、授業・評価指標づくりのノウハウ(Dos & Don'ts)!

  • 質問/山岡 憲史(立命館大学 教育開発推進機構 教授)

  • 回答/吉嶋 幸子(前 滋賀県立玉川高等学校 教諭、現 滋賀県立草津高等学校 教頭)


「どんな生徒を育てたいのか」を明確にした授業実践、学校改革に取り組まれたお二人の先生による、公開研修会の模様を収録したDVD『高大接続を意識した英語教育と学校改革の可能性』

 

ここでは、文部科学省指定「高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事業」の研究主任として取り組まれた滋賀県立玉川高等学校での3年間の教科・学校マネジメントの工夫や苦労をご紹介いただいた吉嶋先生の発表を受け、山岡先生が更に深くお話を伺った『解説・インタビュー編』の内容から抜粋でご紹介します。

 

学校全体を巻き込むのには大変苦労されたと思います。集団を変えるというのは難しいと思いますが、先生方の意識や授業のやり方が変わったなど、3年間の成果についてお聞かせください。

一人一人の先生方の成長と共に、学校という集団としての成長があったのではないかなと思っています。形は色々ですが先生にとってはやはり生徒の成長が最大のご褒美なんですね。それを実感出来るとか、その為に今自分は頑張っているとか、そういう実感を持っていただく事が出来て、それが先生方自身がやっぱり自分も変わろうという原動力になったのかなと思っています。

当初は、授業を見せたくないとか、自分がやってる事を変えるつもりは絶対ないとおっしゃっていた方もいました。でもそれはその方のやり方そのものが悪い訳ではないので、先生のやり方を否定している訳ではない事をお伝えしたり、生徒が「こういう事を力をつけたい」という事がはっきりした時に、その先生は明らかに変わられました。これは自分が否定されているのではなく生徒の将来、生徒の生き方に関わる責任を自分達が負ってるんだ、と。その責任感を元々持っておられましたので、その辺りの「何故」というところを問い続ける事によって、大きく変わられた先生が沢山いました。

 

生徒の声も一部ご紹介いただきましたが、学びの姿勢が変わった生徒達の卒業後の声などもお聞きになりましたか?

人と話すことを恐れなくなったり、あるいは実際にどういう事が大学で求められているのかという事をあらかじめ知った上で先に進んだから良かった、という声は聞いています。

その子は英語関係の進路に進んだのですが、実際の英語の授業の中身だけではなく、やはり大学に行くと今まで以上に自立した学習者にならないと本当の学びを追求していくことは出来ませんので、主体的に自分が取り組む事などの大切さを、その時ははっきり意識した訳ではなかったけれど卒業して実際に次に進んだ時に「あっ!これはこういう事だったんだな」と気づきがあったという声を聞いた時には、やってて良かったと思いました。

 

総合的な探求の時間等が入ってきて、教科間連携や全教科による生徒の成長などが言われていますが、その中で「英語科が果たす役割」について、どう捉えていますか?

今、英語科が頑張ることで、それが学校改革のエンジンになると本当にに確信しています。

ひとつは、アクティブラーニングの視点に立った学びを学校に紹介した際、一番驚きが少なかったのがやはり英語科でした。ペアワーク、グループワークはもう当然のように取り入れていますし、形だけではなくて、やりながら身につける、知識が無くとも、知識を身につけながらそれを活用することでこそ身につけられる教科ですので、まさに主体的対話的で深い学びのフロントランナーになれるんじゃないかなと思っています。

また、様々なかたちでのアウトプットのノウハウも知っていますので、そういった意味でも生徒の主体的で、なおかつ豊かな自己表現力の育成のリーダーにも成り得ると思いますし、英語科は教科教材の中で様々なテーマを扱っておりますので、コンピテンシーベースでの教科間連携に加えて、コンテンツでも連携をしながらコンピテンシーを育てていける、軸になれる教科だと確信しています。

 

教科間連携についてお聞きします。他の教科との取り組みの中で、これはうまく行ったという具体的な実践例はありますか?

すべての教科が年間いつ何をしているのかという一覧表を作りました。

学年ごとに、今どこの教科が何をやっているのかということは、意外とお互いに話さないとわからないので「これは順番を入れ替えてもいいから、この教科と一緒の時期にやろうか」とか「この教科のこの時点でこれを知ってるんだったら、あまりここで知識の深堀をしなくても活用に特化して自分の授業を作れるな」と調整することができます。

具体的には、家庭科と保健と理科における「命、生命に関わる学び」について、この表を作ったことで一連の授業が上手く噛み合ったという例がありました。

 

今は教頭先生という研究主任より上の立場で学校マネジメントを考えておられると思いますが、いつもどんなことを先生方にお話しして、先生方をやる気にさせているか、お聞かせください。

「それは生徒の為になっていますか?その事を必ず考えた上で物事を決めたり、行動をしてください」ということをいつもお伝えしています。それともう一つは「すべてが繋がっています」という事です。

例えば先日、進学クラスの検討委員会があり、どういうクラスにしていくか、何を選考基準にするかという話になったんですが、それは全てどういう生徒を育てたいかによります。

まずは、先生方がどういう子ども達を育てたいか、そしてどういう姿で社会に送り出したいか、あるいは送り出さなければならないかその事を常に考えて学校を教育活動をみんなでチームで頑張りましょうというお声がけをしています。


「真面目でおとなしい、手のかからない生徒達。今のままで何がいけないの?」というところからゼロスタートし、受け身だと考えていた生徒達が様々な活動を経てイキイキと積極的に学ぶ様に「うちの生徒達は決して考えることが嫌いなわけではないんだ」と逆に先生が気付かされたというエピソードからも、生徒が先生が変わられたのが感じられました。

 

ここでは指導実践発表後のインタビューの、ほんの一部しかご紹介できませんでしたが、思考判断表現力を養う実際の大学の授業とほぼ同じ授業を体験する「高大連携研修」や「総合的な探求の時間」についてのお話など、大小あらゆる施策を積み重ねて学校全体を動かしてこられた吉嶋先生の指導例は、非常に示唆に富むものでした。

是非、ご覧いただき、授業改善の参考にしていただければ幸いです。

 

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