ニーズに特化した英語教育、英語表現

論理的に自己を表現できる生徒を育てる!

  • 質問/山岡 憲史(立命館大学 教育開発推進機構 教授)

  • 回答/松川 (奈良県立青翔中学校・高等学校 教諭)


「どんな生徒を育てたいのか」を明確にした授業実践、学校改革に取り組まれたお二人の先生による、公開研修会の模様を収録したDVD『高大接続を意識した英語教育と学校改革の可能性』

 

ここでは、中高6年間かけて理教科単科高校ならではの人材育成を行う中での「英語科としての取り組み」をお話しいただいた奈良県立青翔中学校・高等学校の松川先生の発表を振り返り、山岡先生が会場からの質問も含めて更に深くお話を伺った『解説・インタビュー編』の内容から抜粋でご紹介します。

 

ポスタープレゼンテーション等、発信の場を多く与える指導の一方で、文法の解説等、基礎力養成の地道な取り組みを生徒にさせていくためのの何か、基礎的なことを発表に繋げていく架け橋、生徒の意識の変え方等で良いヒントがあればお聞かせください。

英語教員の一番悩ましい部分ですね。まず基礎力がないと、人に理解してもらえる文章を話す事も書く事も出来ないので、基礎的な文法の力というのは絶対に必須ですよね。ですから、私は楽しみながら文法をやる、という事を意識しています。文法を比較させるような形で提示をして、この違いは何だろうと生徒達と一緒に考えて、考えた上でそこから実際はこんなふうに使うんだよと言ってみたりとか、なるべくその考える時間を生徒達にあげるというやり方で、文法を進めています。

 

特に問題をやって答え合わせをするような場面で、答えが一個しかないもので手を上げて発言する時に、非常にプレッシャーを感じる生徒達が多いので、私がどういう手法にたどり着いたかというと、ペアで生徒達が解いた問題を見せ合いっこをする。で、この答えでいいのかな、違っていた場合はなんで自分はこう考えたのか、どうしてあなたはこっちになったのと話し合いをさせる。そして、ペアの意見としてクラスに発表しましょうと。そうすると間違ったという意識も一人にかかるプレッシャーも非常に軽くなりますので、そうするとこんなペアもいたよね、こんなペアもいたよねということで、いろんな意見という事で吸い上げる事が出来る。で、実際にはこれかなあれかな、でまた生徒達に返す、そういうようなインタラクションの形式で文法を教えるようにしています。あとは、例文を極力身近なものにするというようなふうに作り変えて、楽しく教えるように心がけています。

 

生徒が家庭でする学習について、先生が期待または要求しておられる活動をお聞かせください。

まず中学生は宿題を出します。教科書準拠の問題集や文法のワーク等のページを指定し、いついつまでにやってきましょう、と。そして、やってきたものについてはその日のうちに見て返す。よくやりがちな「中間期末の範囲でまとめて提出」ということをさせずに、もうこまめにこまめにチェックをするようにしています。

 

その宿題として「振り返りの復習活動をする」、家に帰って「音読活動をしましょう」というものを課しています。

 

音読は教科書を使ったり、授業中のプリントを使ったり、文テストがある時には、その文テスト用の教科書の文章をまとめたプリントを配り、これを家で練習しておいでと、いうようなかたちにしています。

 

音読は成果物が出ないため実際にやってきたかどうかの確認が取りづらいですが、どのように確認していますか?

早読み活動という活動をやっています。 

一回目に初見で読んだ物は、きれいに読むことは出来ても早く読むことは出来ない。でも家に帰って何度も何度も読む練習をしてきた子達は、早く読むことが出来ます。

それを実感させるために、授業では、例えば2分という時間を設定して教科書の本文を一体何回読めるか、ペアで早く読む競争をして早く読み終わった方が相手を止めるであるとか、最終的には私と競争して私に勝てただろうかとか、そういった活動をして、音読をした成果が出てると、こんなに早く読める子がいるよねっていうような形で返しています。

 

新しい学習指導要領にある「思考力判断力表現力等」をかなり意識した授業をされていますが、英語において「思考力」というものは何なのか?どう鍛えるのか?どうしても日本語で考えて英語にすることが多いですが、本当に英語で思考力が鍛えられるのか? その辺りはどうお考えですか?

思考力をどういうものに定義するかによるとは思いますが、例えば中学生であれば、自分の頭で考えるというのがまず一つの思考力かなと思っています。

その頭の中を英語で考えているのか日本語で考えているのかは見えませんが、例えばじっくり練ってポイントを抑えながら論点をつけさせて文章を書くということであれば、もしかしたら頭の中の思考力は日本語かもしれません。ただし、日本語で考えていても出すときに英語になっているのであれば日本語も英語も両方育つのではないかと考えています。

まとまった英語を読んでそれを自分なりにまとめるとか、それに対して自分で意見を言うということになれば、英語を英語で理解しながら考えているのも、もしかしたら英語かもしれない。

ですからあまり限定的に何か「これが思考力」というようには思っていなくて、ともかく自分の頭で考えて、自分でまとめて何かを発信する、というのが思考力かなと思っています。

 

このような実践方式の授業スタイルに変えてよかったなと思われることをお聞かせください。

英語の授業が楽しいという生徒が非常に多くなったことですね

最初は英語が苦手だと思っていたけれど、やれば出来るんだ自分でもこんなにしゃべれるんだと成功体験を沢山積ませてあげる事が出来るようになり、自分達が主役になって授業に参加するようになったのでほんとに実感として自分達が学んでると思える生徒達が増えてきてくれた。それが学びの意欲に繋がり、他者理解にも繋がって、いい効果が出てきました。それは私がファシリテーターをしているだけで、本来のあの子らが持っている力が引き出されて来たのかなというふうに思っています。


「将来グローバルに活躍する科学技術系人材の育成」という学校目標の下、英語科として、「国際人としての素養」「プレゼンテーション能力」「国際学会に参加できる英語力」を身につけさせたいと中学から探求的思考力を磨いていく指導実践には、非常に説得力があります。

 

ここでは指導実践発表後のインタビューの、ほんの一部しかご紹介できませんでしたが、一貫した方針のもとに、地道にかつ緻密な教育を実践されている松川先生の指導例は、生徒にとって「何が必要か」を今一度考え直す気を起こさせるものでした。

是非、ご覧いただき、授業改善の参考にしていただければ幸いです。

 

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