『学級担任が行う台東区立東泉小学校の英語授業』⑴


2020年度に遂にスタートした小学校における英語授業の開始時期の早期化と高学年における教科化。

ここでは、東京都台東区立東泉小学校の4年生、6年生の授業を収録したDVD『学級担任が行う台東区立東泉小学校の英語授業』の中から、学級担任の先生お二人に授業の狙いと実施上の留意点についてうかがったインタビューを紹介します。

学級担任ならではの視点と強みを活かした授業のヒントが、ここにあります!


  • インタビュアー:瀧沢 広人(岐阜大学教育学部英語教育講座 准教授)

  • 回答者:堀越 由美(台東区立東泉小学校 教諭)

  •     柳澤 千尋(台東区立東泉小学校 主任教諭)

4年生「相手に配慮しながら、欲しい物を尋ねたり答えたりしよう」

瀧沢:今日の4年生達を見ていて(What do you want?の単元で児童がピザの具材を集め、オリジナルピザを作る場面)一生懸命に物づくりをして成果物が出来るのが本当に嬉しいのだなと思いました。先生の準備は大変だったと思いますが、イラストのソーセージを切ったりなど、具体的な場づくりをするとしないでは違いますか?

堀越:そうですね、やはりカードの形でやるのと、具材の形になっているものとではリアリティが違うので、子どもの興味の持ち方が違うかなと思います。

瀧沢:お客とお店屋さんの役に分かれて、非常に効果的な活動が出来たのではないかと思います。スモールトークでは、先生がクリスマスに靴が欲しいと言い、その後にAny questions?と問いかけたところ、すぐに What color?と返ってきていましたが、そのようなやりとりを指導されてきたのでしょうか。

 

堀越:クラスでは朝の会で時々英語を取り入れていまして、今は欲しいものを一人一人が日直の時にスピーチしています。日直にWhat do you want?と聞いて日直がI want~.と答えた後、Any questions?とその場に応じた質問を聞くようになってきました。

 

瀧沢:それで多くの子ども達が手を上げて質問をするようになったのですか。非常に良かったという思いと同時に、4年生であれが出来るというのは少しびっくりしました。3年生から英語を学びますが、4年生に対して気をつけている点はありますか?

 

堀越:間違いを恐れず自由に意見や発音をして欲しいという気持ちがあります。何かわからない事があった時には日本語でも構わないので質問してもよいという事ですね。英語が嫌いになっては困るので楽しい活動を取り入れることはいつも意識しています。

 

瀧沢:4年生ですと絵本の読み聞かせがあったかと思いますが、3、4年生にはどんな絵本を扱っていますか。

 

堀越:幸いうちの学校にはビッグブックがたくさんありまして、その中から単元に合ったものを選んだり、英語の授業とは関係なく朝の活動の時に楽しそうな絵本を選んで読んだりしています。子ども達の興味を引くことが第一ですが、簡単なフレーズが多いものや、繰り返しの多いものを選ぶようにしています。何回も繰り返していると何となく次が予測でき、子どもの方から声が上がったりすることもありますので、楽しく出来る事の一つだと思っています。

 

瀧沢:何かお勧めの絵本があれば教えてください。


堀越:元気でイタズラっ子が多いものですからシンパシーを感じるのかもしれませんが、子どもは『No, David!』が好きですね。それとうちのクラスでは『Five Little Monkeys』です。あとは、読むというよりもやりとりを出来るように、3年生の最初はカラーを習うので『A Beautiful Butterfly』をやり「Can you see red?」と聞くと指をさしてやり取りが楽しめたりするので、そういう本もおすすめだと思います。
 

瀧沢:今日の授業は5時間扱いの単元の中の4時間目でしたが、次の5時間目はどのような授業をされる予定ですか?

 

堀越:5時間目は当初、クリスマスパーティーをやるということで始めた授業でして、クリスマスツリー・パフェ・ピザもつくったので、今度は実際にクリスマスパーティーを開こうと言っています。ゲームをしたり歌を歌ったり、英語から離れる部分もありますが学級活動とも合わせて、プレゼント交換をして実際にクリスマスパーティーをするので、きっと楽しみにしていると思います。

 

瀧沢:校内には英語の掲示物が色々貼られていますね。


堀越:本校は英語の研究校ではありませんが、4階の家庭科室の前の掲示板は英語という取り決めをしているので、世界の挨拶やその時々のテーマを英語担当の二人で作っています。階段の踊り場は言葉の窓というコーナーで、国語の詩や古典も貼っています。今回、私の学年が担当ということで英語のクイズを作ってみました。英語も言葉ということで昨年度は英語のことわざを掲示していたこともあります。アルファベットですけれど形に着目した仲間をつくっているので、低学年でアルファベットが読めなくても形を見て楽しめるように掲示しました。


瀧沢:本当に小学校の先生ならではの立体感のある掲示物、とってもいいなと思います。今日はありがとうございました。

 

6年生「クラスの学校行事ランキングを作ろう」

瀧沢:柳澤先生の授業では子供たちが非常に元気で、声が出て心が解放されてるなというのを感じます。6年生になると声が小さくなり、活動的ではなくなることもありますが、先生自身はどのようなところに気をつけているか教えていただけますか。

柳澤:英語学習では勉強というよりもコミュニケーションを大事にしたいと思っています。人間関係が良くないと上手くいかないので男女が仲良くて、協力できるクラスにしようと5年生の時からそのような指導をしていました。

私が思うに英語を使ってコミュニケーションとれる子どもを育てる事が、将来、外国人や出会ったことのない人達と勇気をもって喋ることになると思うので、英語の授業プラス、コミュニケーション力をつけられるように日々指導しています。


瀧沢:今日の授業を見ても本当に仲の良いクラスで子ども達の心が解放されてると感じました。最後の振り返りで女の子が英語で分かり合えたと言っており、まさしくコミュニケーションの英語だというように思います。
また、活動中に子ども達を何度か止めて中間評価を行っていましたが、非常に効果的だと感じています。子どもたちが活動している間に、先生はどんなところに気をつけながら、活動を観察してるのか秘訣を教えていただければと思います。

柳澤:基本的にはイングリッシュファイブルールズが守れているかチェックしています。コミュニケーションポイントが出来ている子を呼び、評価していたのですが、最近は子ども達がさらに上のレベルに来ているので、自分から積極的に喋っている子や、いろんな英語を使う意欲を見つければ、そこを評価していきたいと考えて行なっています。一方、苦手な子や途中で忘れてしまう子もいるので、中間評価で座らせて、もう1回確認しようねと言葉をかけて、今日もWhat you best memory.と確認するように行ってます。

 

瀧沢:適宜、子どもたちの活動を見て評価していましたね。代表の子を二人選んで、もう1回行ってもらったりしていますが、子ども達はどんな会話をしたか覚えているものなのですか?

柳澤ニュアンスでしかないですが、伝わっているなと思うところがあります。私も、今日、What's number?と言われた時に、何を聞きたいのか分かりませんでしたが、その後、ワークシートを使ったり、ジェスチャーを入れることで、お互いに日本語を使わなくても分かり合う時間や動作を共有して、思いが記憶に残ってるのかなと思う時があります。

瀧沢:子ども達も立っているとフラフラしてしまいますが、チンチンって音を鳴らしたら座る、というシステムが非常に良いなと思いました。また、学級でランキングを作るという活動はよく見かけますが、全員にインタビューする形式は見たことがなくて、とても良い考えだと思いました。子ども達のワークシートは見ていませんが、誰が誰にインタビューしたのか分かっているのですか?

柳澤はい、名簿を英語で載せて、出席番号もその隣に書きチェックが出来るように準備していました。

瀧沢:まだ会話してない子を見つけて会話をしに行く、良いシステムだと思いました。先生のクラスは24人でしたが、例えば、35人、40人いる学級の場合にも同じようにやりたいと思いますが、何か良い方法はありますでしょうか。

柳澤今回も全員が完璧に出来たかと言えばそうではありません。この授業を作るのには限りがあると思いますので、10人以上など、ある程度の区切りをつけてチャレンジする事が大事だと感じます。
今日は全員出来ましたという子がいる一方、半分いくのが精一杯の子もいました。会話を入れてる子達は機械的に質問しているわけではないので、それも良いと私は思っています。全員絶対という縛りや強制力ではなくチャレンジしていくと良いのかなと思います。

瀧沢:先生の授業の特徴は、子どもたちに聞いている場面が多いですね。例えばHow many minutes do you need? と言ったら子供達がTwo minutes.と言うような場面や、学習過程もWhat's next?と言うと子ども達から、practice!と答えていたのは、やはり先生が押し付けるのではなく、子ども達に主体的な学習を促してるからだと思いました。
高学年になると読み書きが入ってきます。アルファベットは3年生から学習するという事ですが、今日の月名、Decemberも先生は英語で書かれていました。文字指導は、どのようにされていますか?

柳澤5年生から文字指導を始めていますが、最初は四線のどこに書いてもOKで、高さも大きさもあまり厳しくは注意していません。書く機会は単元の最後にあるので、そこできれいな字というものを紹介すると、子どもたちが言われなくても気づいて書いて欲しい形になったと思っています。最初から私は言い過ぎず、子どもたちの気づきを褒めて、そこから、では次はもう少し、これ出来るかなというようなという段階を踏ませています。中学校まであと3ヶ月と考えるともう少し指導が必要かなとは思うのですが、あまり焦らずに、最初から完璧な字というようには捉えずに、少しずつコピーして写して気づいていく学習にしていたいなと思います。

瀧沢:教室の後ろにあった子ども達の書いてる字の作品が非常に綺麗に書けているので、5年生の時はそういう段階だったのだと大変驚きました。


柳澤私たちの学校では自主学習というものがあり、音読、漢字と計算以外の勉強を自主学習で取り組む時間があります。中学校があと何ヶ月というのが見えてきた頃から、これに取り組む子が増えてきました。中身も面白く、健康診断や消防訓練、創立記念日も調べてきてくれています。これらを紹介することで周りの子への意欲付けにもなり、自主的に学習してる子達もが増えたと思っています。特に、学習塾に行ってるような子達ではないので、自分で自発的に行っていてすごいなと感じます。

 

瀧沢:これだけ四線にしっかり書けるのは素晴らしいと思います。最後の質問ですが、先生は英語の免許は持っていないということですが、英語教育に力を入れていますよね。何故、英語教育を行いたいと思われたのですか?

 

柳澤もともと英語が好きで、英語の曲を聴いたり海外ドラマや映画を見るのが本当に好きだったのですが、文法が全然わからず、高校生になり挫折をしました。
私が小学校の教員になった時に英語も教えられるようになり、教員になって学ぶ機会がどんどん増えて、受験英語や勉強しなきゃいけない、という英語ではなく、本当に開放的にコミュニケーションのためにする勉強が楽しいなと思うようになりました。また、子ども達がどんどんしゃべりたいという意欲を持っており、それを育てるというのが楽しくて、教員人生、最近は英語教育に力を入れて勉強しています。

 

瀧沢:今日の授業でも、先生が英語でコミュニケーションを取ろうという姿を見ているから、子ども達もやはり英語でしゃべろうという意識があるのだと思いました。ありがとうございました。


DVD『学級担任が行う台東区立東泉小学校の英語授業』では、全ての担任の先生が自信を持って授業するための「台東English Standard」をベースとした、普通の学級担任による、ほぼオールイングリッシュの授業が紹介されています。

 

また、同じくこのDVDに収録されている、管理職へのインタビューも紹介中です。