『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』⑵


小学生の「インプットの蓄積」が自分の言葉になっていく過程が見えるDVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』の中から、管理職の先生方へのインタビューに続き、今回は1年生、4年生、5年生、6年生の授業を実際に行われた6名の先生方に、DVDに収録されている授業を振り返りつつうかがったお話を紹介します。


  • インタビュアー: 徹(岐阜大学 教育学部 教授)

  • 回答者:浅野 綾乃、武藤 康代、小林 保宏、郷 美佳子(生津小学校教諭)

  •    :小栗 遥、樋田 真生(生津小学校教諭 英語専科)

1年生の活動

巽:一般の学校では3年生から英語の授業が行われることが多いですが、この学校では1・2年生の低学年から授業を行っています。今日の1年生の授業を振り返っていただいた感想と、低学年の子どもたちに授業を行う際に気をつけている点、力を入れている点を教えていただけますか?

 

浅野:まず、今日は子ども達がとても元気良く楽しそうにやっていたので、良かったなと思います。低学年の授業では、シールを使った具体物や、お買い物の時もカードなど視覚的に分かりやすいもの、興味関心が引けるものを使うように心がけています。また、1年生には、こちらの英語が伝わりにくい事もありますので「あのスピークだったらこう」、「リッスン聞くよ」など、なるべくジェスチャーを交えながら子どもと会話するようにしています。


巽:英語の言葉とプラスアルファの情報を出来るだけ提供しているのですね。今日のクイズの果物の絵も凄く大きかったですね。窓がついたクイズがありましたけれども、あれもその工夫の一つという事ですか?また、そのクイズに答えるのも「上のマス」「真ん中のマス」でなくて、子ども達が答えて四角を指定する時に工夫していましたよね。


浅野: 大きく見せて子供の興味が引けるようにするように心がけました。今日はone,two,three,で数を指定する事で、クイズの窓、ヒントを開けるように行いました。

 

巽:クイズに答える事で今までの数字の学習、既習事項を使って活動したという形なのですね。オープニングの歌で、子ども達は歌いながらジェスチャーをし、たくさん英語を話してやり取りしていましたが、すぐに出来るようになるのでしょうか?どのようにして色々な台詞をやり取りし、オープニングの歌が出来上がっていくのか、過程を教えていただけますか?

 

浅野: まず1年生のカリキュラムで最初の2時間目までは英語の授業の流れやテクテクサンケンの今日の歌にあてています。まずその2時間を使って、ALTの先生に一文一文ゆっくり発音をしてもらい、それを聞かせて、子どもにも一文一文はっきり話させるところから、だんだんリズムに乗せてやっていきました。

 

巽:なるほど、かなり細かいステップを踏み、英語が染みていくようなそういう取り組みがあって初めて出来るという事ですね。ありがとうございました。

4年生の活動

今日の授業を振り返っていかがでしたか?

武藤:普段の授業もですが、子ども達は英語の授業が大変好きなんですね、今日も本当に心から英語を楽しんでやってくれたのが、大変良かったなと思っています。

今日は授業単元の最後でしたが、この発表に至るまでどんなステップで指導されましたか?

武藤まず1時間目は、果物と野菜の名前を覚えようという事で何回も繰り返しながら覚えていきました。その後に自分が欲しいものを「I want」という言葉を使ってお店屋さんから貰う、またはペアの子から貰う、というかたちで確実に身につけるようにしていきました。2時間目はその学習を生かして、自分が好きで人気が出そうだなと思うナンバー1パフェ”を作りました。3時間目はそのパフェの紹介、4時間目はピザを作り、そして本時はそれを紹介してナンバー1ピザを決めましょうという事を行いました。

 

なるほど、食べ物の具材から始まって、やりとりをして違うものを作るという練習段階があって、今日のピザで発表という事ですね。

授業の始めにティーチャーズトピックとして、話題を子ども達と共有する場面がありましたが、あの話題はどのように選ぶのでしょうか?

武藤教科書にもウォッチアンドシンクという箇所があるのですが、そこではアメリカだけではなく、アフリカや南米、ヨーロッパの場所が紹介されているので、それに触れる事も行っています。本単元は食べ物が多いので、スーパーマーケットや市場、他の国はどうかということで情報収集しています。
本時については、アメリカサイズと日本サイズの違いを子ども達に見せることも大事かなと思い、ジュースを少し取り上げ、実物を用意して見せるという事を行いました。

 

のちのちの勉強に関係したトピックや話題、文化的な背景を子ども達とのやり取りを通して膨らませて行く感じでしょうか?子ども達にとっては英語の豊かなインプットという活動に見えましたが、これは継続的に実践されてるという事ですね。

武藤そうですね。単元が変わるたびに行っています。前回の単元ではアルファベットや文房具がありましたが、教師の文房具の中から子ども達とやりとりをしたり、ALTの先生の文房具を題材にするといったことを行っています。


おそらく英語の専門家ばかりではない担任の先生が教室での英語をたくさん使われていましたが、これは研修もしくは先生のご準備の賜物なのでしょうか?

武藤研修もあると思います。ただ、私も英語が専門ではないので、ハッキリ言ってたくさん使うのは無理です。しかし、「今日はコレを自分の中で使えるようにしたい」「この単元ではこの言葉を使えるようになりたい」という事を自分なりに考えて取り組んでいます。

一つずつ目標を立てて今日はこれが出来るようになりたい、あるいは使えたという実感を、子どもたちと一緒に担任の先生も持つことで出来ているのかも知れませんね。ありがとうございます。

 

5年生の活動

今日の授業を振り返っていかがでしたか?

 

小林:自分自身も子ども達も本当に楽しく授業が出来たかなと思います。

本当に楽しそうで、どこかから英語がほとばしり出るような子どもたちの発話がたくさんあったと思います。特にその発話で目立っていたのはスモールトークでしたが、この活動をどのように捉えて実施していらっしゃいますか?

小林:出来るだけスモールトークの中で、子どもたちに自分の想いや気持ち、考えが話せると良いと思っています。二つの国を比べてどちらが好きかを話させたり、今日のように自分の経験まで結び付けて話してくれる子どもには「こんなふうに話せるといいね」というように、紹介ができたら良いと思っています。

そのような子どもをみんなに広めるためと言いますか、共有する場面の中間交流では、途中で止めて子ども達とやりとりがありましたが、あの中間交流の役割はどのように捉えてますか?


小林:一番は本時の狙いに迫っている子の表現を広めていきたいと思っています。特に今回は単元の終末的なところになるので、これまでずっと大事にしてきた繰り返すことや相手の話してる事に対して、反応していることを、必ず価値付けして広めるように意識しています。


子ども達の様子を見ると、ある定型の会話や表現からそれを超えていくきっかけとして中間交流があったような気がします。周りの子ども達の表現を取り入れる事で、自分で作り出した表現や、自分で話題を広げていくことを可能する役割が中間交流にあったと思います。

それを支えてるのはおそらくクラスの子ども達の人間関係かと思いますが、英語の授業が上手に進む、学びが多くなるクラスの条件はどのようにお考えでしょうか。


小林:例えば分からない事を分からないとか、これが知りたいという事を授業の中で子ども達が話せるといいなと思っていて、実際に自分が授業をしている時にも子ども達は、Any questions?と聞くと結構手を上げてくれています。質問に対して僕が答えなくても近くの子どもが「・・・これで伝わるんじゃない?」という事をお互いに話してくれたり、間違っても良いというチャレンジが出来る雰囲気を作ることかなと思います。


「分からない」「間違い」「出来ない」という事がネガティブな捉え方ではなくて、そこが学びのチャンスという子ども達の姿勢が今日の授業では見えており、英語の授業ではそういった人間関係や学習環境づくりが欠かせない事を今日は見せていただきました。ありがとうございました。

 

1年生と5年生の授業に入っていただきました小栗先生からお話を伺います。担任の先生とALT、そして英語専科の先生と三人で教えられる事もあるとの事ですが、今日のように担任の先生と小栗先生がALT役で授業される場合の役割分担はどのように決めているのでしょうか?


小栗:ティーチャーズトピックでは、どちらが何をしゃべるかを分担して、掛け合いをして子どもを巻き込んで進めています。例えば、1年生では活動に入る時に担任の先生が机間指導をされるので、私はチェックブースを作り、全ての子ども達が私のところに来て話します。その時のキーワード、今日ならばフルーツの名前が言えているか、プラスアルファ、プリーズやジェスチャーで判子を押しますが、ABCで判子を押す位置を変えて評価をしています。


小学校高学年になると授業中の評価が大事になってきますよね。学級の中でどのように評価をするか、示唆に飛んだ活動だったと思います。それからティーチャーズトピックでは二人居るという利点を生かして、会話で子ども達に話題を振るという事かなと思いますが、その時に何か特に気をつけている事はありますか?

 

小栗:担任同士だけで話を進めずに必ず子ども達に問いかけ、反応を確認しながら進めています。


二人の先生がいる事で子ども達への話題の振り方や、子ども達とのインターラクションの可能性が広がり、非常に成果が出るのだと思います。特に低学年の子ども達の発音がとても良かったと思いますが、それについて気をつけている点はありますか。


小栗:低学年では、ハッキリ発話させる事と何度も繰り返すことです。私は良い子には常にその場で褒めるように心がけており、ナイスイングリッシュ、ナイスプロナンシエーションと言うと、英語の時間じゃなくても私に英語を使って話してきてくれるので、自信を持って話してくれると思います。


教室外でも英語で話しかけると良いリズムやタイミングでフィードバックを与える効果があるのかなと思います。ありがとうございました。

6年生の英語活動

今日の授業を振り返っていかがでしたか?

 

郷:今まで習った表現と本時で使う表現を交えながら一生懸命相手と自分の事を話そうとしていた事が伝わってきましたし、楽しんで元気良く出来ていたと思っています。

オリンピックの話題から凄く広がった話題を話している子ども達も結構いましたね。

これまでの授業でも見たい競技を話す場面がたくさんありましたが、It's fan とか見たい理由がIt's exciting だけでは、子ども達が思っていることが伝わらないと思い、好きな選手の名前や、自分がバスケットボールをやっている、というような声を拾いながら広めて来ました。「それいいね!」って子ども達が納得すると自分の話の中に取り入れていくので、いろんな表現が入ったやり取りになっていると思います。

 

いわゆるスモールトークという言語活動がありますが、自分が考えた事や思った事を自分の言葉で、既習の表現で繋げていく、目指すべく形が今日の活動の中で体言化されてたような気がします。今までの積み重ねの効果だと思いますが、スモールトークに子ども達が乗って来るトピックの選び方、これは悩むところだと思います。どのように選ばれているのでしょうか?

例えば今日のように「クリスマスに欲しいもの」という、時期的に子どもたちが話したいことや、夏休みに何をしたか、何処へ行ったかなど、自分が楽しんだ事は話したいですよね。今朝何食べたのとか、昨日の夕飯何食べたというような、子ども達が安心して話せる題材を単元の表現と絡めたり、過去の表現を使って話せるように考えています。

それには子ども達の生活を見ている事が大事だと思いますから、担任の先生がその子ども達に合った話題を選びやすい立場にあると言えるかもしれません。6年生は生津小学校での学びの総決算だと思いますが、どんな所が育って来たと思われますか?

良いイングリッシュを聞くようになり、オールイングリッシュでの授業形式やALTの先生の話を聞いてもらった結果、昨年くらいから子ども達も話し方が分かってきて、やりとりの言葉が増えました。

5年生の後半くらいから言葉としてアウトプットできる量、質が上がって来た実感があるのですね。担任の先生やALTによるインプットがだんだん染み渡って来たということでしょうか。

この6年生達が、中学校の英語の時間にどの様な姿になってくれたら嬉しいと思われますか?

今持っている話す力で自信を持ってやり取りして欲しいです。ただ、まだ語順や言い方を間違えたまま使っている子もいるので、新しい学習の中で正しく話せるようになって欲しいです。それから、ただ読み書きをするのではなく、触れて見てから読み書きが出来るようになっていけると良いなと思っています。

読みのストラテジーといいますか中学校に行って正しさを求めるわけですが、今回の6年生の授業のように、英語を使って正しさが高まるような授業が中学校で展開されると、期待通りの子ども達像になってくれるのかもしれませんね。ありがとうございました。

 

本日、4年生と6年生の授業をご指導頂きました樋田先生からお話を伺います。今日はALT役という事で入っていただきました。
ティーチャートピックやスモールトークでALTの役割が多いところだったと思いますが、スモールトーク、ティーチャートピックの話題をどのように選べば子ども達の活動が滑らかに行くのでしょうか?


樋田:自分が選ぶ時の考えは異文化理解の時間というような捉え方もしているので、子ども達が見た事もないような事を取り出す事で比較して考える事が出来ます。また、自分の実体験があると外国の文化を比較することが出来ます。例えば今日取りあげた大きいボトルと日本の小さいボトルと比べた時に、驚きがやがて子ども達の英語の楽しみに繋がると思うので、その部分を大切にしながら選んでいます。
スモールトークでは子ども達の実体験を話す事に重点を置きながらやっています。子ども達が実際に体験した事を既習表現でやりとりする内容であるとか、今日ですとクリスマスが近いので、何が欲しいか伝い合える事を選んで子ども達に投げ掛けています。

子ども達が話したくなるようなトピック、写真やそれにまつわる視覚的な情報でとてもインパクトがあったと思います。子ども達と話していると、困ることや分からない質問がたくさん出てたと思いますが、そのような時はどのように子どもに返答すると良いですか?

 

樋田:子ども達は結構難しい内容を日本語で言ってくるので、私達がすべてそれを英語で置き換えようとすると、かなり高度で習っていない単語を使う事になります。ですから逆に私達が「こういう事?」と尋ねる事もありますし、どういう言葉になるか子ども達に投げ掛けて、既習表現から引き出して自分達が知っている言葉を生成出来るようにしています。もしも、それが上手く生成出来なかった時は、ALT役が、きちっとした語順を用いながら文を伝えられるようにと心がけています。


子ども達が既習表現でどこまで言えるかは限界がありますが、出来るだけ、どうすれば自分の言葉で伝えられるかを考える回路を、子ども達の頭に作りたいという感じでしょうか。樋田先生はこれまで多くのクラスをご指導されていたと思いますが、小学校の高学年、英語のクラスではどのような事を大事されていますか?


樋田まずは子ども達と共に、英語を楽しむ事が一番大事だと思います。やはり教師側が楽しんでいないと子ども達にも楽しみが伝わらないと思います。
また、子ども達がいくら話したいと思っても、良質なインプット無しでは子ども達は話せるようにはならない、という経験を私もしてきました。ですから、沢山聞かせ話させる場を多く持ち、子ども達から気づきを持たせるようなインタラクションを多く取り入れ、普段の授業を行う事が大事かなと思います。
私達教師も難しいですが、知っている英語を用いながら子ども達に問いかけ、子ども達が言った事に対してそれにも英語で答えないと、小学校の英語では話させる事は無理だと感じています。


話させるのを焦らず、インプットを大切にという事ですね。ありがとうございました。


英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集

どの学年も本当に楽しそうに英語を話していたのが印象的でした。そしてその子ども達を導く先生方も皆、自分も子ども達も心から英語を楽しめて良かったと声を揃えて口にされていました。

そのような雰囲気の中で低学年から英語を楽しみつつインプットを重ね、高学年での自発的なアウトプットに繋げているのだというのを目の当たりにすることができました。

 

DVD『英語教科化を踏まえた生津小学校の授業実践集』では、長年にわたる英語教育の取り組みから生まれた生津小の「普段の授業」が見られます。