山形県川西町にみる小学校英語活動の取り組み⑶「現場の先生方に聞く」


YouTubeを使った指導案動画の共有、という画期的な方法によって効果的・効率的な小学校英語活動を進めている山形県川西町。この取り組みを紹介したDVD『山形県川西町にみる小学校英語活動の取り組み』では、T1(学級担任)お一人による授業、T1(学級担任)とT2(英語専科)による授業、T1(英語専科)とT2(ALT)による授業を収録しています。

 

ここでは、前述のDVD巻末に特別収録しているインタビューの中から、実際にこの映像の中で授業を行なっている英語専科教員、ALT(Assistant Language Teacher)、学級担任、そしてICT担当の先生からうかがったお話を、たっぷりご紹介します。


  • インタビュアー:金子 淳(山形大学 地域教育文化学部)

  • 回答者:市川 道子(川西町立小松小学校 教諭 英語専科)

  •    :AARON JAMES KEMPF(川西町外国語指導員)

  •    :蟹澤 秀臣(川西町立吉島小学校 教諭)

  •    :星 なつみ(川西町立小松小学校 教諭)
  •    :後藤 聡(川西町立小松小学校 教諭)

英語専科教員・ALTに聞く、組織で取り組む小学校英語活動

金子:これまで各教員に任されていた英語の授業を、町一丸となって足並みをそろえたこの取り組みについて、どのようにお考えですか?

市川:川西町でこの取り組みに着手してから3年少し経ちます。移行措置からの取り組みでありましたが、今の段階では必要であったなと思っています。
先生方がどのように英語の授業を進めて行くかが全くわからない状態の時に、この取り組みを行うことで先生方のサポートが出来たのではないかなと思っています。

具体的には、実際どのように授業を進めていくか、という事だと思います。教科書や指導書、今使っている「Let's Try!」や「We Can!」もそうですが、指導書には細かく色々なことが書いてあります。しかし、担任の先生方が読み込む時間はほとんどありません。そこをいかに噛み砕いて、短い時間で簡単に理解して頂くか、というサポートだと思います。

金子:実施していく際にどのような点に気をつけていますか?

市川:まず動画に関しては、「この授業の狙いは何なのかということをしっかり明確化させる」という事です。やはり先生方が狙いをはっきりと持つことで、その教材・題材を自分のクラスの子ども達に合わせて選ぶ事が出来ると思います。おそらく先生方は私達の動画を見て自分の子ども達に合ったプランに少しずつカスタマイズなさってると思うので、そういう部分がわかっていただけた点ではないかなと思います。
あと、児童の視点に関しては、「この辺でつまずくのではないか」、「ここはおそらく時間がかかるんじゃないか」、という所を私達が事前に捉えて、お伝えするというところは、気をつけてきたつもりです。

 

AARON:子どもに対しては、正しい発音と英語の面白さを伝えたいということです。先生に対しては、授業をどう進めるか、デモンストレーションやアクティビティ、ゲームなどを実際にやって見せて、わかってもらうことです。

市川:ALT(外国語指導員)であるアーロン先生に、T1とT2の役割の分担なんかを実際にしていただく事は、とてもありがたかったです。

また、アーロン先生の発音を聞くことは、実際に子供の研修でもあり、先生方の研修でもありました。それは私達にとってとても有効だったなと思います。


金子:この取り組みで良いと思っている点は何ですか?

市川:先ほどからお話しているように、やはり先生方の負担の軽減かと思います。次に、先生方が実際に動画を見ていただく事での意欲の向上。そして、その同じ目線で授業を作っていくことで、先生同士で授業についての話が出来る事。あとは、他学年の動画も見られるので、他の学年の内容も把握出来る、という事などがメリットかなと思います。

金子:今後改善していこうと思っている点は何ですか?

市川:より分かりやすく、より狙いをしっかりと新しい教科書に合わせて、そこを配信していく必要があることと、教科になりますので、5,6年生の評価についてこれからどのような方向で進んで行くのか、しっかり動向を捉えて先生方にお伝えしなければならないと思います。それから、私自身も含めて、私たちは英語力をまだまだ向上させていかなければいけないなと思っています。
より分かりやすく、というのは、先程アーロン先生が仰ったように実際の活動を盛り込むことや、ここまで「狙い」と表現してきましたが、最後の狙いである「子供達の最後の姿」を明確にして、1時間1時間どういう活動で、それをどう積み上げていくかという点をハッキリ示す事かと思います。

金子:他の自治体でも同様の取り組みをするとしたら、どのようなアドバイスをしますか?

市川:初年度に英語の担当をさせていただいた時に、様々な研修に行かせていただきましたが、私が研修してきたものを先生方にお伝えしようとしても中々広まりませんでした。どのような方法が良いだろうと模索していたところ、次の年に英語教育推進委員会というチームを立ち上げて頂きました。

沢山の先生方と話し合う中で、「もっとこうしたらいいんじゃないか」「こういうやりかたもあるじゃないか」「私はこう考えるんだけどどうだろう」、そういった先生方の意見の中で凄く英語の研究が進んでいったんです。
英語という教科に対するハードルはまだ先生方は高いと思うのですが、川西町の取り組みで私が良かったなと思う点は「個人ではなく、チームで動くことができた」という点です。皆で色々と意見を交わしてきたことが、本当に私自身のためにもなりましたし、先生方1人1人のためにもなり、推進委員の先生方はそれをもって各校に戻って、各校内を推進する。

先生方が自分達でやろうという気持ちが育ってきましたし、おそらく川西町の先生方は、来年度教科化してもスムーズに授業を進めて行けると思います。この「チームで動く」ということが本当に大切だなと思ったので、是非そのように進めていただければと思います。

このインタビューは2019年度に行われたものです

学級担任に聞く、組織で取り組む小学校英語活動 1

金子:この取り組みについてどのようにお考えですか?

 

蟹澤:動画の配信については、見る→真似をする→授業をやってみるという事で、授業を展開する力を高めさせて頂き、すごく自分の勉強になりました。
また推進委員会の方には、上手くいかない時には相談に乗って頂き、安心して進めることが出来たなと思っています。
まず、市川先生がスモールトークで色々な人に語りかけていくやり方や、ゲーム性やうまく展開するコツなどを教えて頂いたので、そこを真似させて頂きました。また、委員会の方には「子供達がうまくついてきていないな」と感じた場合に相談させて頂きました。

金子:実施していく際に、どのような点に気を付けていますか?

蟹澤:実施していく中で徐々に出来るようになった事ですが、目の前にいる子どもたちと作成したプランや動画は必ずしも合うとは限らず、思っていた反応にはならない時もありました。例えば何回か繰り返し聞かせて、そろそろ子ども達が話すことができるだろうと思った場面でまだ子供達が上手く話せなかったり、確かめながらでないと言えなかったりなど、子ども達が自信を持って話すことができていないなと思う時は、自分のクラスの子供にはどんな活動が合っているか、どういう風に話すと上手くいくか、などを考えながらやっています。

金子:この取り組みで良いと思っている点は何ですか?

蟹澤:先程お話した点でもありますが、まずは真似をしてやってみるということが、自分の勉強に繋がったという点です。また、実際に映像でも見ることができる為、すごくイメージが沸きやすかった点です。レッスンプランだけを見ても中々難しいので、実際に映像があると、「あぁなるほどな」「こうやってやるんだな」と納得出来ました。

金子:今後、改善していこうと思っている点は何ですか?

蟹澤:改善する点とは違いますが、クラスの自分の子供達の様子に合わせて、教えて頂いていることを少し変更し、より子ども達の身になるもの、そういう授業を作っていく、という点を考えていかなくてはいけないなと思っています。

金子:他の自治体が同様の取り組みをするとしたら、どのようなアドバイスをしますか?

蟹澤:難しい質問ですが、手本を示して頂いたり、相談できる場があったりということが私にとってはありがたいことだったので、そういった取り組みがあるといいと思います。外国語を始める時に心配していた点は多数ありましたので、動き出せたという事が凄く良かったなと思っています。

金子:今後に向けて何かお考えをお聞かせください。

蟹澤:まず外国語活動を週2時間しなければいけないとなった時に、大変だなということもありますが、これからの子ども達は英語を話すことになると想定し、そういう力を子ども達に付けてあげる為に、自分が出来ることは何かを考えていきたいと思います。

学級担任に聞く、組織で取り組む小学校英語活動 2

金子:この取り組みについてどのようにお考えですか?

 

星:時間が限られている中で、推進委員会で作ったレッスンプランを元に、教科書とYOUTUBEを確認するだけで授業の準備が出来るということは、ありがたいことだと感じます。打ち合わせの時間が凄く短くなり、相手の先生がポイントさえ理解してもらえれば、具体的にどう展開していくかを話すことができることは凄く大きいと思っています。

金子:実施していく際に、どのような点に気を付けていますか?

星:一つ一つの活動に目的があると思いますが、「それが何か」を考えながら動画を見たりプランを見たりして、分からない事があれば一緒に授業をしてくださるT2の先生に聞く、聞けるように準備をしておくという事に気を付けています。

金子:この取り組みで良いと思っている点は何ですか?

星:やはり教材研究の時間が短くなるという点が良いと思います。動画があれば、要望や提案があった先生にすぐに反応、対応が出来るというのは凄く大きいと思います。

それから、やはり連携が取り易いことです。お互いに「ここがポイントだよね」ということを共有できた状態で「ではここは市川先生の方が良いからお願いします」「アーロン先生の方が良いからお願いします」とお願いが出来るので、スムーズに役割交代が出来ます。

金子:今後、改善していこうと思った点は何ですか?

星:T2をしていて思ったことですが、活動と活動の間を繋ぐということが凄く難しいと感じています。どのようにして活動をスムーズに繋いでいくか、最後の活動までどうやって展開していくかを考える上で、自分のクラスの子ども達に合わせてその組み立てを変更する必要もあるということを感じているので、その点を頑張って行きたいです。流れがなく切れてしまうことが多いので、やはりスモールトークから今日の活動に入るように工夫したり、声掛けをしたり、子どもたちも「次にこれをするから今これをするんだな」ということが分かるように私たちは導いているつもりです。

ICT担当教員に聞く、組織で取り組む小学校英語活動

金子:この取り組みについてどのようにお考えですか?

 

後藤:他の市町村には無い先進的な取り組みであると思っています。また、情報端末を使い、地理的や時間的な問題を解消している点にもすごく好感を持っています。

金子:実施していく際に、どのような点に気をつけていますか?

後藤:授業を行う前に、確実に先生方が動画を確認出来るように配信するということに気をつけています。市川先生や星先生、アーロン先生が作成してくださった動画をスムーズに編集、配信するというような流れを、確実に行うことです。

金子:この取り組みで良いと思っている点は何ですか?

後藤:1つ目に、授業をする先生方にとっては、授業方法をいつでもどこでも動画で確認出来ることだと思います。2つ目に、ALTの先生との打ち合わせの時間を短縮することが出来るので、スムーズに授業を進めることが出来ているという点です。

金子:この取り組みをしていて、苦労した点とかありますか?

後藤:YouTubeに動画をアップロードする際に、時間がある程度限定されている為、長くても15分ぐらいの動画になるように、お願いしています。動画はコンパクトかつ中身が濃い内容にまとまっているかと感じています。

金子:今後改善していこうと思っている点は何ですか?

後藤:川西町以外の所に転勤された先生方がいらっしゃるので、その先生方の登録を今後どのようにしていくかという事を検討していかなくてはいけないと考えています。
また、今後新しい教科書に対応した学習指導案が作成されると思いますので、そこにQRコード等をつけて配信していく事が出来れば良いなと考えています。


この取り組みに関わるあらゆる立場の先生方のお話をうかがいましたが、どの先生からもこの取り組みに大きな意義を感じ、自信を持って推進していらっしゃる姿勢が感じられました。また、その効果は川西町の小学校教員のアンケート結果からも、実際に授業を受けている児童の姿からも明らかでした。

児童・生徒の学ぶ姿勢や学力は、どうしても環境や出会った先生に左右される面が少なからずありますが、潤沢な資金がなくとも、スーパーティーチャーがいなくとも「力の結集でここまでの効果・効率化が図れる」というのを目の当たりにし、このような優れた実践例をご紹介できることを幸せに感じました。

小学校だけでなく、中学校の先生方にも是非知っていただきたい取り組みです!

また、この取り組みにおいて、実際に授業前に先生方に共有されていたYouTube動画(指導案)をご覧になりたい方はこちらから▼▼▼