山形県川西町にみる小学校英語活動の取り組み⑵ 「管理職に聞く」


地方の公立学校でも工夫と力の結集でここまで出来る!」「これなら出来る!と大きな反響を呼んだ山形県川西町の取り組み。町が一丸となって小小連携小中連携の英語活動に取り組んで大きな成果を上げている好例ですが、組織の意識を1つにまとめるためには、現場の先生方だけではなく管理職の協力も欠かせません。

 

ここでは、この取り組みを紹介したDVD『山形県川西町にみる小学校英語活動の取り組み』の中から、「川西町英語教育推進委員会」を設置してこの取り組みをまさに推進してきた小野教育長と、町内の小学校の1つである小松小学校の小林校長へのインタビューをご紹介します。


  • インタビュアー:金子 淳(山形大学地域教育文化学部)

  • 回答者:小野 庄士(川西町教育委員会教育長)

  •    :小林 英喜(川西町立小松小学校長)

教育長に聞く、組織で取り組む小学校英語活動

金子:川西町における英語教育改革を始めるにあたって、どのような問題がありましたか?

 

小野:最初は何から始めたらいいかわからず、小学校英語の「教科化」ですので、これまでとは大きく変わると想像はしていましたが、本当にすべてが課題でした。
我が町は、6つの小学校から1つの中学校に、というルートを通りますが、各小学校に差があると中学校の方が非常に苦労なされるだろうなと思いました。当時は、英語を全く教えた事がないという方がほとんどですので、しっかり研修をしなくちゃいけないなとも思いました。国あるいは県の様子を伺うと研修も非常に微々たるものでしたので、川西町教育委員会の企画力といったものが試される気もしておりました。
最初は他県を視察したり、あるいは文科省で研究指定を受けているような学校にお邪魔して膨大な資料を貰ってきたりしました。しかしそれだけでは、まだまだ先生方の指導力ももちろんの事ではありますが、先生方のモチベーションが上がらないことについて、どうしたらよいかをいつも考えておりました。

 

金子:その過程でいろいろな困難があったと思いますが、どのようにその困難を乗り越えてこられましたか?

小野:外国語活動はやっていましたが、ALT(Assistant Language Teacherに授業を全てお任せする状況でした。授業内容も、歌が得意な人は歌、ゲームが得意な人はゲームと、子ども達は非常に盛り上がりますが、決して教科と言えるものではありませんでした。
それからもう一つの困難は、小学校の先生なので英語を話す機会も
ほとんどなく、英語が苦手な人もおりました。その結果、なかなかALTに話をかけられない。なおかつALTもほとんど日本語が話せないような状態で来るので、ALTと担任のコミュニケーションが上手く行かない。これでは、TT(Team teaching)で授業しても難しいだろうなと感じ、どんな手があるのだろうかと考えておりました。

 

金子:どういうプロセスで進めてこられたのですか?

小野色々ありますが、先生方は、英語の苦手な人、得意な人、様々です。まずは、先生方の力は一定ではないという認識に立って、最も英語が苦手だと思っている先生に合わせたような内容で最後までやっていく、という事で一致しました。
研修の順序や内容については、他校視察から始まり、塾講師による授業放送大学の小学校の英語に関わっている番組の受講などがあります。そのほかにも、山形大学で行われている中学校英語の二種の免許状を取るための講習会に参加して免許を取って頂く、といった仕組みを作りました。小学校は6校あるんですが、今のところ6つの小学校に免許を持っている先生が1人以上いるという状態を作ることができています。
このようにプロセスを並べてみると、無我夢中でがむしゃらにやって来たという事でもありますが、その基本になっている考え方としては、「英語嫌いの子供達を決して作らない」ということと、「先生方自身の指導力をいかに上げていくか」ということです。今回の場合、小学校に英語が入るという状況では、どうしても指導法などに力が入ってしまいますが、もっと大切なことは先生方の指導力向上のためにそれぞれの教育委員会でどのようなチャレンジをするかだと捉えています。

 

金子:今後、どのように進めていかれるか、お教えいただけますか?

小野今、川西町で行なっている、そして皆様方から評価をいただいているのが、指導案動画の配信です。全ての先生方が同じ指導案を元に授業しているのですが、最初、それを配布しただけの段階では「自信がない」という先生が多かったので、その内容を先生方に理解してもらえるように、その指導案に合わせた映像を先生方にお送りしました。すると、それぞれの先生方がそのYouTubeで共有された動画を事前に見て、自信を持って授業に向かうことができるというデータも出て、非常に効果のある手法であると思っています。
次のステップは、新しい教科書に基づいて、1時間1時間ごとの指導案をきちっと作ることだと思います。そして、それに合わせた映像をこれまでと同じようにYouTubeに確実にアップロードする。そうする事によって、先生方の指導力がアップし、きちんとした授業が成立するだろうと思っています。また、今の時代を考えても、僻地校との遠隔授業など、そういったものも頻繁に活用したような授業が出てくるのかなと思っております。
ですから、基礎的な事をきちっと押さえながらも、時代に合った手法で、次の展開を考えて行きたいと考えています。

 

金子:他の自治体も同様の取り組みをするとしたら、どのようなアドバイスをなさいますか?

小野他の自治体に、1つの町の教育長が物申すみたいなことはなかなか難しいのですが、非常に効果があったと感じることは、英語推進の為の委員会(川西町英語教育推進委員会)を組織したことです。この委員会には必ず出席してくださいとあります。学校行事あるいはクラス事情でどうしても欠席してしまうことがあると委員会を進めることが出来ないので、月一回必ずこの日に行いますということで、最優先で集まっていただきました。
あるいは、大学等での講義や、資格を取る為の授業においては、出張旅費を町の方でお上げしますという事です。教員でも取得可能な、個人につく資格は沢山ありますが、その資格取得を自分の懐からではなく出張で取得する事は、学校行事に左右されることがありません。このように、教育委員会というのはただ単に口酸っぱく言うんじゃなくて、資格取得などの体制を整えるという大きな役割を持っていると思っており、この点に関しては上手くいきましたので、是非利用していただければと、そんなふうに思います。

 

校長に聞く、組織で取り組む小学校英語活動

小林:私は以前、この活動の中心となってくれている英語専科の市川先生とICTに堪能な後藤先生と一緒に働いており、今回の取り組みは、そのお二方の力が融合された、効率的でかつ効果的なものであるというふうに感じております。

金子:この取り組みを実施する際に、どの様な点に気を付けていらっしゃいますか?

小林:まず、初めて英語教育を実施する先生方も多いので、苦手と感じている先生方にも負担感なく取り組んでもらうことに配慮しております。

初年度は、市川先生が本校に英語専科として単独の授業を持っており、担任の先生は市川先生のそばについているといった状況でした。ですが昨年度に私が赴任してからは、市川先生には出来る限り担任の先生をその授業に関わらせて欲しいという事をお願いしました。さらに今年度は、担任の先生にも徐々にT1の授業に慣れて頂くために、担任の先生がT1の授業を担当し、T2に市川先生という形を取るなどの配慮をしながら進めてきました。

 

金子:この取り組みで良いと思ってる点は何でしょうか?

小林:授業研究方式で行う研修は非常に効果があると思いますが、準備にもかなり手間がかかりますので、YOUTUBEとICTを使って15分程度に短縮し、授業の事前準備が出来るという効率化という点、なおかつ、実際の授業を見ることが授業者にとって一番モデルになるので、そういった点を利点に感じております。

金子:今後改善していこうと思っている点は何ですか?

小林:2020年度から教科となり教科書も採択になりましたので、教科書に合わせたYouTube等の動画の作成や、もちろんレッスンプランも組み合わせていく必要があります。そういった作業も膨大になっていきますが、それぞれ町の英語教育推進委員会のお力を借りながら、町全体あげて進めてまいりたいと思います。


金子:他の自治体も同様の取り組みをする場合、どのようなアドバイスをしますか?

小林:本町は中学校1校に対して、小学校が6校ですが、いちばん恵まれない環境の下で教育をしているところに合わせて要望を聞きながら、全体で足並みを揃えていくという取り組みが必要かと思っております。
先生方によって指導方法は様々あるとは思いますが、各先生方のスペシャリティで成立する授業ではなく、町としてのレッスンプランに基づいて、スタンダードをきっちりクリアする授業を全体で見ていく必要があるかと思います。実施する際には、管理職として校長会などで課題があれば話し合いますし、中心となる英語教育推進委員会とも様々な連絡調整をしておりますので、そういった情報を元に、本町全体で英語教育に取り組んでいくようなスタンスでおります。

金子:今後に向けてお考えになっていらっしゃることを教えてください。

小林:2020年度から英語の教科化が始まる訳ですがそこに向けての研究というよりも「今後持続可能であるかどうか」という視点を大切にしていきたいと思っています。
イベントごとで終わることのないように、それぞれの先生方が着実に力量を高めていけるような研究であり、かつ英語の教科が小学校でもしっかりと定着していくような研究を目指してほしいと考えています。
さらに今回の研究はYOUTUBEによる配信という事をメインとしてやっていますが、こういう取り組みや研究システムは他の教科にもきっと転用出来るのではないかと考えております。最近の指導案にはQRコードがついているなど、これまでの実際の指導と合わせて映像を見ながら理解を深める共有も出来ればさらに研究が深まるのではないかと考えています。

このインタビューは2019年度に行われたものです


管理職のお立場であるお二人の貴重なお話に、組織が一つの方向に向かうためには、やはり現場だけではなく、あらゆる立場の協力者・実行者の力が不可欠なのだな、と感じるとともに、いかにそれを皆で「共有」できるか、にもかかっている、そのための努力を惜しまず出来ているか?と振り返させられました。これは、どんな組織・現場にも共通することですね。

では、次は実際の授業にあたった現場の先生方へのインタビューをご紹介します。▼▼▼

また、この取り組みにおいて、実際に授業前に先生方に共有されていたYouTube動画(指導案)をご覧になりたい方はこちらから▼▼▼