巽徹先生へのインタビュー


巽 徹(たつみ とおる)

 

岐阜大学教育学部

 


最近の英語教育界の現状についてお聞かせください。

 

2020年に小学校から次の学習指導要領が改訂になりますので、ここが一つの節目ではないかなと思います。

ひとつは、小学校の英語教育が早期化します。小学校の3、4年生から英語活動が始まり、5、6年生では英語が「教科」になります。そうなると授業時間数も増え、内容も深まりが出てきたり、それを指導する先生のトレーニングなどにも関わってくると思います。

 

これを受けて中学校、高校でも今まで覚えたものをただ使う、はき出すという英語ではなくて、大きな変化として言えるのは、即興でのやり取り。本物の英語を使うという意味において、英語を即興でやり取りする、というのがかなり重要な一部分になってきています。それに向けた授業や子ども達の活動、このようなことが大きく変わって今までよりも深い活動が必要になってくると思います。

 

三つ目は学び方のことになりますが、前によく言われていたアクティブラーニング、主体的で対話的な深い学びということですが、英語の教育の中で深い学びとは何かが、これから話題になってくると思います。

 

色々な技能を繋げて、読んだものを語ったり、聞いたものを語ったり、その中身に関係した学び、表現、自分の考えがどう深まっていくのか、という英語教育がこれから求められてくると思います。

制作に携わってくださったDVD教材についてお聞かせください。

以前、『中高英語授業・定着から表現、表現から発信へ』というDVDで、岐阜の先生方の取り組みをご紹介いただきました。これまで多くの英語の授業では教科書を中心に音読をやったり表現に向けて音読をあの手この手でやることが多かったのですが、その先にどんなことをさせたらいいのか、音読をやって定着したら次に何が出来るのかというのを示して頂いたシリーズだと思っています。

 

このDVDでは中学生対象の授業と高校生対象の授業があるのですが、どちらにも共通しているのは教科書の中身を土台にして、その先にロールプレイや表現活動を繋げていることです。その繋ぎの橋渡しとして中学校も高校も主にこのシリーズで取り扱われているのはRetellingという活動です。

教科書の表現や自分が持っている表現を総動員して、内容を知らない人に対してどのようにして伝えるか、という活動ですが、このRetellingの活動が次の本当の表現活動にかなり効果的なのではないかということで焦点をあてています。

その先にどんな活動が出来るのか。ロールプレイであったり、自分のお気に入りの国の紹介であったり、その先にさらに、聞く人とのやり取りを行うというような活動があります。技能を統合して行う活動、次の学習指導要領で取り上げられている深い学びに繋がるような活動として紹介出来ていると思います。

英語を学ぶ上でのDVDの活用の仕方を教えてください。

今後、特に小学校の先生方がどのように授業を進めていけばよいのか、ピンとこないことが多くあると思います。是非こんな姿に子ども達を育てたい、そこに辿りつくにはどんなステップを踏んでいったら到達できるのか、という研修ビデオがこれからもっと出てくるとありがたいです。これらを先生方の間で共有して研修の中で使って、視聴して議論し自分の授業に活かすというような使い方が出来れば非常にいいと思います。

先生方の数も多いわりに小学校でのリソースが少ないため、DVDでの研修は非常に有効になってくるのではないかと思います。

 

そして中学・高校でもこれまでの定形表現を使ってやり取りをして終了、ではなくて即興の力をどう育てていくのか、このあたりがポイントになってくると思います。それには一発勝負で何かを仕留めようとするのは難しく、毎日毎日の短い時間での積み重ね、つまり帯活動や、その帯活動とメインの活動、それから教科書との繋がりなどが示されるような具体的な内容のDVDが出てくると大変ありがたいのではないかと思います。

これまでのDVDの中にも、帯活動でどのように話す力や聞く力を育ててきたかという内容のものもありますのでそれらを統合していくと、日々の短い時間で帯活動としてどうやって生徒達に力をつけていくかというのも見えてくると思います。

教員を目指す学生や先生方にメッセージをお願いします。

私は教員養成に携わっている身ですが、昨今教員、教職という仕事は難しいというイメージがあります。これから教職を目指す学生には、先生方が教員として仕事の大変さと喜びもあるということを是非見つめて頂きたいと思います。

自分たちが力を注ぎ込んだ分、子ども達を育てるために舞台裏で一生懸命頑張った分、生徒達が育つというのがやりがい、醍醐味だと思いますので、是非子ども達を育てるための労を惜しまず頑張り、その成果が出ることを信じて教員を目指して頂きたいと思います。

また、現職の先生方は非常に忙しい中、自分達の授業を良くしよう、生徒達のために改善しようという努力を毎日続けられていることと思います。

このDVDがそういったことの助けになったり、先生方のネットワークを組んで一人の宝を一人占めせず、他人の宝もみんなで共有するということをやっていくと全体として楽しい授業、質の高い授業、満足のいく授業、先生も生徒も充実した授業というのが可能になってくると思います。

 

大変なお仕事ですが是非これからも一緒に頑張っていきましょう。

  

(2018.5)



※指導者・協力者等の所属は記事掲載時点のものです。