太田洋先生へのインタビュー 1


太田 洋(おおた ひろし)

 

東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科

英語・英語教育研究専攻 

人文学部英語コミュニケーション学科 教授


■ 最近の英語教育界の現状について

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最近の英語教育界の現状についてどう思われますか?

 最近は本当に英語教育に関していろんな変化があります。我々は入口と出口と言うんですけど、入口は小学校に英語が入る事、出口は大学入試が変わる事。この入口と出口が変わる事で、それに従ってもたらされるいろんな変化…例えば「can doリスト」「英語の授業は英語で」「4技能」「学習指導要領で求められる事の高度化」「アクティブラーニング」等、求められる事がいっぱい出てきた。

 

それが良い方面に働いて「やっぱり頑張ろう」ということになればいいんですが、同時に懸念にもなっていて、例えば小学校の先生方は「英語嫌いなのに英語なんか私教えられないよ」ってなったり「一体どうしたら良いんだろう?」と結構先生方が不安になっている。中学校の先生は「中学生になると皆やる気を無くしちゃって」とか「嫌いになっちゃって」と言うので、(やる気を出させる為に)中学校は頑張らなきゃいけない。しかし「中学校が頑張れって言われたって…どういう風に頑張れば良いのよ?」となり、ここでまた不安になる。高校の先生は高校の先生で大学入試が変わるという所で不安になったり、…ある面で言えば変わる事に対する期待と不安というのをすごく感じます。

 

私の所にも「英語の授業は英語で!」と言う時に、「英語の授業は英語で、って言うけどどうやれば良いんでしょうか?」とか、「100%英語じゃなきゃいけないんでしょうか?」等の質問がよく来ます。

こういうので怖いなと思うのは、(分からない部分のせいで、英語に対してやる気等が)振り子が逆に振れるみたいな形で無くなってしまうと、凄くもったいないな、と言う気がします。

不安になっている現場の先生方が、どうすれば不安を払しょく出来ると思われますか?

時代によっていろんなニーズが変わってきました。また子供達が変わってきましたし、求められるものが変わってきた。でも言葉を習得するための教育としては変わらない事も当然あって、「言葉を習得させるために必要なことは何なのか」という視点を忘れないで、自分がやってたこと・やってきたことをちゃんと見直して「この点はちょっと足りないな」とか、「この点は誤解してたな」とか、「ここら辺は自分はチャレンジしなきゃいけないな」とか、自分のやってることをこういう時だからこそを振り返って、良い点と、もっと改善しておこうと言うこの二つの点から冷静に考える事が私は大切だと思います。

 

英語教育に対して変に不安がらずに、変に自信を無くす事も当然ないですし、不安がる必要はないと思います。

ただ、やはりいろんなところが変わりつつあることだけは事実なので、柔軟さを持つ事が大事です。「私のやり方もこれだからこれしかない!」ではなく、「そういう考え方もあるか…それだったら自分はこういうのは取り入れられるな」とか「こういうのをやってみようかな」っていう柔軟な気持ち・姿勢を持ちながら、というのが一番大切かと思います。

先生が教えられている他の先生方はどのようにしているんでしょうか?

この大学に来てから3年目に入ったんですが、3年間教職の子たちと色々話したりしていて「どんな授業を受けてきた?どうだった?」って聞くと意外と変わっていないなっていう気がします。でもその反面、SELHiをやってきた高校の子たち、それを受けてきた子たちが中学校の時に、先生が英語で頑張ったので色々使う機会があった、高校でSELHiではないけども4技能を大切にしながら使う機会があったって子たちがいるのは事実なんですね。

 

私がすごく思うのは、その子たちのところで決定的に違うことが大学に入ると出てくるんですね。それは何かと言うと、例えば1年生と2年生、特に1年生の最初なんかはインテンシブイングリッシュと言って90分授業4コマネイティブ。オールイングリッシュ。徹底的にそのスポークンの部分を鍛えるっていうのをやるんです。するとそこに明らかな違いが出てきて…面白いのはそれまで英語を使うとか、英語による授業を受けてこなかった、英語を使うってことをして来なかった子たちは「わからない、どうしよう?」ってなる。でもその子たちは英語が好きだから、ある程度の力があるから入ってくる。でもその子たちも凄く最初は苦労するんですよね。しばらくすると「あぁ大丈夫大丈夫」ってなるんです。

 

でも片や一方、SELHiを受けてた子とか、SELHiでなくてもそれによる英語の授業とか、4技能をしてきた子たちは「これ高校の時にやってきた!」となり、自然に入る。よくその子たちも「ちょっとレベルが高くても良いよね」って言うわけですよ。もし全体的にそうなって行けば、当然底上げはされていく。そうすると大学の入り口も変わってくるので、そうなった時は楽しみだなと。

 

中高の先生の影響ってすごく大きくて、頑張ってる先生の授業を受けてきた子達の、大学に入ってからの構えと伸びが違いますよね。それが大きいなと。私のように中学校の教員やってた人間からすると、「こういう風にいって伸びてって、大学に入るとこういう状態になっていくんだ」と感じますね。そういう子がどんどん増えると良いなと。

 

この間もある県に行った時に、そこの高校の先生が「今年の高校の1年生は英語で話してごらん、って言うと普通に話すんですよ」って言うんですね。小学校で英語が始まった子たちがいよいよ高校に来たかな、と。小・中・高と同じ様な事を大切にしていくと違うんだろうな、というのは最近感じることですね 。

 

少子化や学校の経営統合の影響等は?

よく教員研修やりますが、その子たちに「どうして先生になりたいの?なんで目指してるの?」と聞くと、「中学校の先生がよかった」とか「高校の先生がよかった」って言うやっぱりその先生による影響ってものすごく大きいですね。

 

だからおそらくある一定数の子は、確実にそういう風に「その先生方が頑張ってきたことがあるから今いるんだ」っていうのは感じますよね。

 

その子たちがやっぱり心配になってる様な事のひとつは、今出ている先生の過重労働みたいな…あっちの方が私はネガティブな…だからその先生になると土日も無くなっちゃうんじゃないだろうかとか時々そういう事は…それは学生の本音としては、もちろんを教えることが好きだし魅力を感じるっていうから部活も頑張るけども、だけどだからといって本当にまるっきり休みがなくて、朝から晩までいる様なのは本当にいいんだろうかって思うのは当然だと思います。

 

だからそれは多分そっちの影響は私は少なくないんだろうな、と。

 

(2018.5)

※指導者・協力者等の所属は記事掲載時点のものです。